第16話 新しい仲間
休憩も兼ねて街道の近くに立っている木にもたれかかっていた。筋肉痛はなくなっていたが少し足が疲れてきた頃だったのでちょうどいい。
少しお互いついて話したのだが、どうやら草スライムも気づいたらぬいぐるみに入っていたらしい。さっきパンをあげたスライムとは別の個体だった。
『や~、本当にビックリですよー』
私の膝の上で軽快に話す草スライムとは対照的にラディウスは肩の上で無言を貫いている。やっぱり機嫌が悪そうだ。
「明るいんだね。凶暴だったらどうしようかと思った」
『スライムは基本明るいですー。何でかは知りませんけど。
でも本当にありがとう、シーラちゃん。草ぬいぐるみとはいえ、また景色を見て回れるのですから』
草スライムは私のことを「シーラちゃん」と呼んでいる。
嫌ではないのだがちゃん付けで呼ばれたことなんて5歳頃までなので、なんだかくすぐったい。
「そういえばあなたも前は別の生き物だったの?」
『いいえー?ワタシは前もスライムですよー』
「え?」
スライムだった魔物が何からのかたちで死んでしまって私のぬいぐるみに入り込んだ。
ということは――
「ラーディーウースー?」
『ウゲッ⁉』
こっそり肩から降りようとしていたラディウスを右手で掴んで顔の前に持ってきた。
「ラディウスも前はドラゴンだったの⁉」
『そうだよ!つーか、お前気づいてなかったのかよ⁉いろいろおかしな部分あっただろ⁉』
「そんなこと言われてもわからないもん!」
『鈍感娘が!普通気づくだろ!だいたい――』
「アハハッ!シーラちゃんたち、おもしろーい!」
もっと続くかと思われていた私とラディウスの口喧嘩は草スライムの一言で止められた。
『おもしろいだと!?どこがだ⁉』
『そうやって言いあってるところがですー。子ども同士のケンカみたいで』
「確かに私はまだ子どもだけど……ラディウスは違うよね?」
『当然だ!』
『ラディウスさんは子どもっぽいんですねー。アハハハッ!』
言い返せなくなったラディウスを見て草スライムは笑い転げていた。なんだかんだ言ってケンカをとめてくれたことに感謝しないといけない。
ゆっくり気持ちを落ち着かせてから話題を変える。
「名前ほしいよね?私もなんて呼んだらいいかわからないし」
『ほしいでーす!ワクワク!』
「そんなに楽しみなんだ……。なんか緊張する」
変な意味の名前はつけられない。つける気もないけれど。
しばらく悩んでいるとピッタリの名前が思い浮かんだ。
「じゃあ、テネル!」
『テネル……わぁ!とってもいい名前ですね!嬉しいですー』
草スライム――テネルは膝の上でピョンピョン跳び跳ねる。
柔らかいという意味で、さっきパンをあげたスライムから閃いた。今は草なので柔らかくはないが、そのうち布で作り直すつもりだ。
テネルと盛り上がっていると私に掴まれたままのラディウスがため息をつく。
『俺たぶんコイツと気が合わねぇな』
「だからって突っかからないでよ?」
『大丈夫ですよー。そうなってもスルーしますから』
テネルの言葉を聞くとラディウスが手の中でバタバタと暴れた。
納得いかないようだ。
『俺がケンカ好きみたいな言い方やめろよ!?』
『え、違うんですか?』
『違う!』
ラディウスは思いっきり否定したが私はケンカ好きだと思っている。しかし言ってしまったらまた黙り込んでしまいそうな気がするので、
気持ちだけに留めることにした。
「これからよろしくね、テネル」
『はいー、こちらこそよろしくー』
「ところで、リル村って知ってる?」
『知ってますよ。こっちでーす』
テネルは私の膝から飛び降りるとピョンピョン跳ねながら先導を始める。
おそらくテネルもヴァイスア大陸が故郷なのだろう。
立ち上がって追いかけようとするとラディウスがまた暴れた。
「何?落ちるよ?」
『お前、アイツを信じるのか?』
「うん。だってとてもいい子じゃん」
『もしリル村じゃなくて別の所に連れて行くつもりだったらどうすんだよ?』
ラディウスはテネルのことを信用してないみたいだ。気持ちはわからなくもないが、不思議とテネルはそんなことをしないと確信している。
「その時はその時だよ。
そういうラディウスはどうなの?」
『俺⁉……もし騙すなら最初っから騙してる』
「へー」
『まぁ俺のことを怪しいと思ってるならそれでもいいけどな』
ラディウスは私の手から抜け出て定位置に座った。
今まで自分の前世がドラゴンであることを言っていなかったのでモヤモヤはしているが、そういわれると猜疑心が強くなってしまう。
『シーラちゃーん、来ないんですかー?』
「今行くー!」
少し離れた場所にいるテネルを追いかける。
それにしてもラディウスの前世にはビックリさせられた。
私はまだ一般的なドラゴンも見たことがないけれど、ラディウスは普通のドラゴンだよね?