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第14話 情報収集といえば

 宿屋に戻ろうとしていると、ある看板を見つけて立ち止まった。泡が溢れているグラスの絵。


 「酒場……ここにもあるんだ」


 『だいたい町にはあるんじゃねぇのか?特に船乗りたちにとっちゃ憩いの場だろ。

 そういやまだ何も情報集めてねぇな。今のうちにしとくか?』


 「うーん……でもなぁ……」


 正直、酒場の雰囲気は舞踏会を思い出して苦手だ、しかしラディウスの言うことも最もで、土地勘が全くない私は情報収集をしないといけない。

気は乗らないがドアを押して中に入ると胸元が開いた服を着たお姉さんが声をかけてくる。室内は会話が飛び交っているのはノレトスと一緒だが、騒がしさはこちらの方が上だ。


 「あら、いらっしゃ~い。好きなとこに座ってね~」


 『うわ、露出の高い服だな。寒そうだ』


 「こ、こんにちは。あの、この辺りに詳しい人っていますか?初めて来たばかりでわからなくて……」


 お姉さんは困ったように眉を下げて唸っていたが、笑顔を作ると私の肩に手を置く。


 「じゃあ私が教えてあげる。こう見えてもそこそこ世間には詳しいのよ」


 「ありがとうございます!」


 「さ、座って座って」


 促されるままカウンター席に腰かけて膝の上にラディウスを置いた。

するとお姉さんも隣に座ってニコニコ笑う。


 「あら、かわいいぬいぐるみ。

 さ、何から話しましょうか?」


 「えっと……有名な物ってありますか?」


 「有名……有名ねぇ……。

まずこの大陸にはホワイトドラゴンっていう魔物が――」


 「詳しく教えてください!」


 ドラゴンの言葉に反応して思わず身を乗り出すと女の人は小さく飛び上がった。


 「へ?え、ええ……いいけど……ドラゴン好きなの?」


 「はい!」


 「そうだったの。でも残念ね。けっこう前にホワイトドラゴンは息絶えたっ噂で聞いたわ」


 「息絶えた……?」


 ビックリして言葉が出てこない私をよそにお姉さんは淡々と話を続ける。


 「そうみたいなのよ。でも不思議なのよね。だって20年ここに住んでるけどホワイトドラゴンの被害なんて聞いたことがないもの」


 「好きな話の内容にそっくり……」

 

 もちろん『ドラゴニアメモリーズ』のことだ。特に何も悪いことはしていないのに倒されてしまっという部分が。

しかしお姉さんの表情は特に変わっていないので話を知らないのかもしれない。何事もなかったかのように話を続けることにした。


 「住処ってわかりますか?」


 「ごめんなさいね、わからないわ。

でもどこだったかしら、ドラゴン討伐に協力した所があるって。そこだったら知ってる人がいるかもしれないわ」


 「協力した所……」


 「そうよ。なんでもドラゴンをおびき寄せるのに――あ!思い出したわ!リル村よ!リル村!」


 「ここから近いですか?」


 「微妙な距離ね。近いとも遠いともいえないのよ」


 行きたいという気持ちが湧き上がってきたが、宿をとっているし今日は昼も回っているので後ろ髪を引いてはいるが諦めるしかない。 

 ふと、お姉さんがドラゴンを怖がっていないことに気づいた。クラルハイト大陸では言葉を出しただけでも避けられていたのに。

 

 「お姉さんはドラゴンを怖がっていないみたいですけど、大丈夫なんですか?」


 「ええ。だって実物を見たことがないし、何か被害を受けたわけでもないもの。私だけじゃなくて他の人たちもそんな感じよ」


 「そうなんですね。話題にしちゃいけないのかと思ってました」


 「少なくともここは大丈夫よ。他の場所では被害が出ているところもあるみたいだけど」


 「他にもドラゴンがいるんですか⁉」


 「そりゃあねえ。生息地が限られているだけで沢山いるんじゃないかしら。私も詳しくは知らないけどドラゴンの中でもとっても強いドラゴンたちがいるって。

ホワイトドラゴンもその1体に数えられてたとか……」


 ますますホワイトドラゴンがすでにこの世からいないことが信じられなくなる。いったい何に負けてしまっただろうか。リル村の人たちだったら知っているかもしれない。


 「わかりました。ありがとうございます」


 「あら、もう帰っちゃうの?ゆっくりしていったらいいのに」


 「たくさん歩いたから疲れて――」


 その時、私のお腹が盛大に鳴った。お姉さんが上品に笑い、私は顔を合わせるのが恥ずかしくて下を向く。

ラディウスはお姉さんを気にしているのか無反応だった。


 「お腹空いてるのね?何か食べていって。

あ、もちろんお代はいただくわよ」


 このまま帰っても小さくなったパンしかないので、ドラゴンについて教えてもらったお礼も兼ねて銀貨1枚の魚介スープを注文した。

 料理がくるまでの間が暇だったので改めて室内を見回すと様々な人が大声でで楽しそうに会話している。中には顔を真っ赤にして酔っぱらっている人もいた。


 「は~い、おまたせ~」


 お皿からは湯気がモクモクと上がっていて、表面にギッシリ魚の切り身と野菜がスープに浮かんでいる。


 「わぁ、おいしそう!」


 「ここのオススメ料理よ。最初から頼むなんて目のつけどころがいいわね」


 『またウマそうなモンを……』


 「いただきまーす!」


 一応貴族なので食事マナーには気をつけた。

味付けはしていないようだったが魚と野菜からいいスープが出ていて全く気にならず、あっという間に完食する。


 「は~、ごちそうさまでした!」


 「よほどお腹が空いてたのね。でも完食してくれて嬉しいわ」


 「とってもおいしかったです!」


 「それはよかったわ。また来てちょうだいね」


 「はい。ありがとうございました!」


 ところが酒場を出た私は首を傾げた、てっきり夕方になっていると思っていたのに空は真っ青だったからだ。


 「あれ?そんなに時間経ってなかったっけ?」


 『経ってるぞ』


 ラディウスはそう答えて黙ってしまった。原因を考えているのかもしれない。

 クルリと体の向きを逆にして酒場に戻りお姉さんに突っ込んでいく。


 「お姉さーん!」


 「あら、忘れ物?」


 「いいえッ!

 今、何時ですか?」


 「今?そうねぇ、まだ鐘が5回しか鳴っていないから午後6時は過ぎていないわ」 


 お姉さんは不思議そうに私を見ていたが、ハッとして大きく頷いた。


 「ああ!そういうことね!

 ここはね、夜がこないのよ」


 「夜がこない……?」


 『白夜か……』

 

 「そうなの、白夜って言ってね。

夜がこないからこの町には街灯がなかったでしょう?」


 「言われてみれば……」


 町の街灯もそうだが、さっき寄った雑貨屋にもロウソクやランタンのような物は見かけなかった。

気にする余裕もなかったが、夜がこないのなら必要ない。


 「いつ寝てるんですか?」


 「それはもちろん他の大陸の夜と同じ時間よ。ずっと起きてたら体に悪いし」


 「そ、そうなんですね」


 「明るいと眠りにつきにくいかもしれないけど、頑張ってね」


 「はい……。ありがとうございまず」


 お姉さんは呼ばれて、バタバタとお客さんのところへ行ってしまった。

用事も済んだのでおとなしく酒場を出る。


 「白夜かぁ。遊び放題だね」 


 『お気楽娘が。夜がこないってのもなかなか大変だと思うぞ』


 「そうなの?」


 『少なくとも俺はな』


 「ふ~ん」


 私には何が大変なのかわからなかった。

ヴァイスア大陸で暮らし始めたらわかるのだろうか。

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