第11話 ヴァイスア大陸へ
外に出ると太陽が石造りの道を照らしていた。昨日は夜だったのでまったくわからなかったが赤レンガや石造りの物が多い。
足が痛いのは治っていないが少しマシになったが、痛いことに変わりはないので少し引きずるようにして進む。
それに地面は土ではなく石なので靴を履いていても歩くたびに足の裏も痛い。
「船ってどこだろう?」
『右見ろ、右』
ラディウスの言う通りにすると、奥に木の足場と宿屋ぐらいはありそうな船がかすかに見えた。
いつの間に知っていたのだろう。観察力がすごい。
「あれが船⁉」
『走るなよ。足もつれてコケるぞ』
「はーい……」
走りたいのをグッと我慢して歩く。念を押されてムッとしたが、13歳にもなって何もない道でコケる姿を大勢の人に見られるよりはマシだ。
町の景色を楽しみながら船を目指していると、木で造られている建物がほとんどないことに気づいた。
「それにしても石とかレンガとか造りが頑丈だね」
『海が近いからな。波や風に耐えられるぐらいじゃなきゃ生活できねぇぞ』
「海の近くの生活も大変なんだ?」
『……つーか、お前、そんなに喋って大丈夫なのか?』
通りは多くの人が行き交っていて賑やかなので、うまいこと私の独り言はかき消されていた。それに小声だし問題ないと思う。
「大丈夫だよ。心配してくれてるの?」
『そんなんじゃねぇ。
ただ、お前が変なヤツ扱いされて船に乗れないんじゃないかって考えただけだ』
「それを心配っていうんだよ」
『そう思うなら思っとけ。俺はそんなつもりねぇからな』
「ふふっ」
思わず笑い声をもらす。
さっきの転ぶこともそうだったが、形だけだとしてもラディウスが心配してくれていることが嬉しかった。
『なに笑ってんだよ』
「別に~」
『フン、お気楽娘が』
◯◯娘と言われるのも慣れてきてしまって言い返す気も起こらない。そのため会話か途切れた。
無言のまま船の所に辿り着く。
遠くからでもじゅうぶん迫力があったのに、近くで見るとなおさらだ。
「これが船だよね⁉すご~い!!」
筋肉痛も忘れて、はしゃぎながら見て回っていると
ガッシリとした体つきの男の人が声をかけてくる。
「元気のいい嬢ちゃんだな!船、初めて見るのか?」
「はい!」
「そうか。俺は船長やってんだ。なんか聞きたいことあるか?」
初めて聞くが、船長とは偉い人ではないのだろうか。
そんな人が護衛もつけずに当たり前のように歩いていることと、気さくに声をかけてきたことにビックリする。
せっかくわからないことがないか聞いてくれたので、頭を捻って考える。
「あ……えっと、船乗るのにお金っていりますか?」
「ああ。銀貨2枚だ。
は、いいんだが、目的地はヴァイスア大陸だぞ?」
「大丈夫です!そこに行きたいので!」
「じゃあ、あそこの桟橋にいるヤツに渡してくれ」
船長さんが指差した先には革袋を手に下げた男の人。列を作っている人からお金を受け取って案内している。よく見るとお金を受け取ったときに何かしていた。
『船、乗るんだろ?』
「うん……」
何をされるのか不安になってくる。しかし乗らないとヴァイスア大陸に行けないので列に並んだ。
前に5人ほど並んでいたが、あっという間に私の番が来る。
「船に乗りたいんですけど……」
「見りゃあわかるよ。この列はそうなんだからさ。
アンタ初めてかい?銀貨2枚貰うよ」
「はい……」
乗船費を渡すと男の人はさっきと同じように金属の刃物で少し擦った。一瞬、ガリッという短い音がしたのを確認すると目を細めて頷く。
「いいぜ、乗んな」
「い、今のは何をしたんですか?」
「今の?ああ、たまに銅貨に色つけて銀貨にしたやつを持ってくるのがいるんだ。
だが、金属で少し擦ればわかるからな。それで確認してるのさ」
「へ~」
感心していたら後ろが少し騒がしくなってきた。何事かと振り返るとしかめっ面の人たちと目が合う。どう考えてもいいムードではない。
「ちょっと!後ろがつまってるんだけど!」
「早くしてくれよ!」
「わ~、ごめんなさい!」
怒声を背中に浴びながら船に飛び乗った。
勢いが強かったせいで少し傾き、内から悲鳴が上がる。
「あわわ……」
『ハハハッ!踏んだり蹴ったりだな!』
「船と相性悪いみたい……」
少し暗い気分になった。しかし落ち込んていても仕方がないので、船が出るまで歩き回ることにする。
波でゆっくりと全体が揺れているため少し歩きづらい。
今いる平らな場所には先には乗っていたお客さんたちが
散らばって談笑している。どうやらここが待機場所みたいだ。
前と真ん中と後ろの3ヵ所に太い柱があって、それぞれにいくつか紐がぶら下がっている。見上げると大きな布が縛り付けられていた。
「太い柱……」
「マストって言うんだ」
「あ、船長さん」
「よう、嬢ちゃん。さっきは災難だったな」
船長さんはそう言ってニヤリと笑う。列をつまらせた場面か船を傾けた場面を見られていたようだ。
恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
「み、見てたんですか?」
「そりゃあ、あんだけ声が聞こえたらな。
でもまぁ、あれだけで済んでよかったな。中にはお金要求してくるヤツもいるからよ」
『おっかないヤツがいるもんだな』
「う――そ、そうですね……」
思わずラディウスに続けそうになって、慌てて言い換える。このまま話しているとうっかりで変な受け答えをしそうなので話題を変えた。
「マ、マスト?に布が縛ってあるのは何でですか?」
「あの布は帆っていってな。港から少し離れたら下ろして風を受けるんだ。それで進むんだぜ」
「な、なるほど」
せっかく説明してもらっているにもかかわらず、申し訳ないことに全然ピンとこない。
こんなに大きな船が風で進むことが理解できたぐらいだ。
真剣に聞いているフリをするのも申し訳ないし、さっきチラリと出た大陸が気になったので聞いてみることにする。
「し、質問があるんですけど、いいですか?」
「おう、何でも聞いてくんな」
「さっき目的地って言ってましたけど……」
「ああ。時間帯によって目的地が違うんだ。時間がかかるから毎日2往復しかできねぇけどな。
1回目はヴァイスア大陸で2回目はロートア大陸だ。
やけにヴァイスア大陸に行きたがってたが、観光か?」
「そ、そうなんです。大陸を渡るの初めてでワクワクしてて」
まさかラディウスを送り届ける為とは言えないため話を合わせる。ワクワクしているのは本当だけれど。
「ハッハッハッ!そうか!
ヴァイスア大陸はクセのある場所だからな。気をつけろよ?」
「え?具体的には……?」
「着いて少ししたらわかるさ。
はしゃぎすぎて船から落ちるなよ?」
「落ちませんよ!……たぶん」
ムッとして言い返すと船長さんは笑いながら片手を上げて去っていった。
どこへ行くのだろうかと首を傾げていると前の方で大声が聞こえる。
「出航するぜー!」
船長さんの号令で待機場所の左右にいる船員たちがいっせいに木の板を海につけて漕ぎ始め、
少しずつノレトスが小さくなっていく。
それを見ているとなぜか胸がしめつけられた。