舞台 2日目
時は進み、いよいよ私達の最後の発表となりました。昨日以上にやる気に満ち溢れたお顔をされていることがわかります。しかし、気合が入り過ぎて少しだけ固くなられている方もいます。それは解さなければなりません。
「皆様、お顔が少し怖いですよ。まずは深呼吸をしましょう。息を吸ってくださいませ」
私がそう言うと一斉に息を吸い始めます。
「吐いてください」
ふぅーと揃ったように息が吐きだされます。
「吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吸って、吸って」
皆様が一気に咳き込まれました。
「さ、さすがにこれ以上は吸えないわよ、」
「ふふ、緊張がほぐれたようで良かったですわ」
「もう、アレックスもこんな風に冗談を言うのね、ふふ、」
アメリアが笑いだすと周囲をつられたように笑い始めます。本当に解れたようで良かったです。これは小さな頃にお兄様に教えていただいた方法です。生憎私は使用したことがございませんが、皆様に効果があったようで何よりです。
「さあ、最後のお楽しみの時間でしてよ。楽しい時間をお客様たちにお届けできるよう、私達も精いっぱい楽しみましょう」
カミラの号令に沿って、返事をします。例のごとく案内係の生徒に続き、舞台の方で移動を始めます。
そして、最後の幕が開けました。
「ああ、こんなにも薔薇は美しいのにどうして皆は嫌いになれるのかしら?」
「それは、鋭い棘があるからさ。全てのものに牙を剝くその姿をどうして好きになる?薔薇は悪女の象徴だ」
舞台の中盤は程よく盛り上がっています。さて、そろそろ2日目限定の演出を実行します。
「ねえ、なんだかいい香りがしてこない?」
「本当だな、薔薇の匂い、か?」
薔薇の香りを会場中に広げ、より物語に浸れるよう演出を凝らします。発表が最後だからこそできる演出です。きちんと許可は得ていますのであしからず。
そして、降らせる薔薇の色も増やしました。こちらは保存魔術を使ったタイミングによるものです。本当ならばすべての色が同じ日に届く予定でしたが、手違いにより先に赤だけが届いてしまったので1日目は赤色だけになりました。
赤色だけが届いたその4日後に他の色は届きました。ですので今日の薔薇は赤が少なくほとんどが他の色で構成されています。
そして、処理に赤色で慣れていたおかげで薔薇自体にもとある仕掛けを施しました。
「ねえ、この薔薇、茎の部分が形が変化しているわ」
「本当だ。可愛いコサージュのようになったわ」
「私のは指輪みたい」
「おかあさま、みてみて」
形状記憶魔術が上手く機能したようです。魔術師役としては嬉しい限りです。
そして、最後の演出。私が舞台を移動しながら光の粉を振りまくのですが、今日は観客席の方にも色のついた光る粉を振りまきます。とはいえ、本物の粉ではありませんので床などが汚れる心配はございません。
この演出が最も頭を悩ませました。どのような魔術を応用し、持続させるか試行錯誤の末に完成したものです。魔力を膨大に使用するため、使える人も限られます。劇団などの公演などで使用するにはいくつか改善するべき点があるでしょう。
「本日は、私達の演劇を見て下さり、ありがとうございました」
代表してカミラが挨拶をします。ちなみにこの間もカミラの周りにはキラキラ輝く粉が舞っており、さながら本物の聖女様のようです。
あ、グレイが涙を流しながらカミラを見ています、隣のノア様は驚きたいけれど隣のグレイに引く気持ちがあるのかどうしたら良いのかわからない表情をしています。お可哀そうに。
幕が下がるまで、私達は頭を下げていました。幕が完全に降りた後も曲席の方からは拍手の音が聞こえます。これは、大成功といえるのでしょう。
しかし、舞台を降りるまでは静かにしなくてはなりません。皆、神妙な顔をして控室へと戻ります。後ほどわかったことですが、その光景はさながらシュールであったそうです。
「お、終わったのよね?」
「え、ええ、それも、溢れんばかりの拍手を貰って、」
「お、俺たち、や、ったんだよ、な?」
「ええ。皆様、とても良い舞台でしたよ」
先生が涙ぐみながらそう仰ると室内は歓声で溢れました。涙を流しながら喜んでいる方や、笑い過ぎてせき込む方、茫然自失としている方と様々です。
「アレックス!」
「きゃ、アメリア、どうしましたか?」
「どうしてそんなに落ち着いているの!?私達、すごいことをしたのよ?」
「そうですわね。とても良い舞台を作り上げることができましたわ。あ、」
「アレックス!大丈夫?」
「ふふ、舞台で少し高揚してしまったようで、魔力を予定よりも多く使ってしまったようですわ」
「アレクサンドラ様、体調は大丈夫ですか?」
「問題ありません、緊張の糸が切れただけですわ」
「アレックス、ここに座って」
「アメリア、ありがとうございます。ふふ、こうやって喜びを共有できるのは嬉しいことですね」
私はこの盛り上がりを邪魔しないよう、隅の椅子へ腰を下ろしました。アメリアの前でふらついてしまったからかアメリアはとても心配してくださっているようです。
「アメリア、私は大丈夫ですよ」
「でも、」
「多くの魔力を一気に使いますと時に命にかかわりますよ?」
「そこまでは使っていませんわ。それに、こうして喜ばれているところを邪魔したくありませんし」
とはいえ、この状態で閉会式に参加するのは厳しいでしょうか?いえ、魔石に溜めてある魔力を少し体内に戻せば、
「先生、私とアレックスは閉会式は欠席しても、」
「そうですね。お2人は教室の方で待機をお願いします。さあ、皆さま閉会式はすぐですよ、移動なさいましょう」
休むとなるとやはりいらぬ心配をかけてしまいそうです。困りましたわ。
そうですわ。
「先生、こちらをお持ちになっていただけませんか?」
「こちらは?」
「私達がいるような幻術を作り出すことのできるものです。魔力はすでに込めてありますので簡単に起動はできますわ」
「...。後ほどお話はお聞かせください」
この言い方は何かまずいことをしてしまったような気がします。
閉会式が終わるまでに私は考えるべきことが増えたようです。そう思いながらアメリアの支えられ、私は教室へと移動しました。




