愚行
確か、オスクリタの話では1人だけ失礼でムカつ、いえ、とても腹立たしく思われた王族がいたと言っていました。最初の方は馴れ馴れしく接してきたのにもかかわらず、最後の方では憮然と敵意を向けられたと言っていた気がします。
ああ、いけませんわ。また、話を聞き流すような真似をしてしまいました。
「聞いているのか!?アレクサンドラ・コリン!」
「もちろんですわ」
「ふん、では何を言ったか言ってみろ!」
「魔王様に失礼な態度でお声を掛け、相手にされなかったために不機嫌、ということでよろしいでしょうか?」
「なっ、誰がそのようなことを、」
「概ね合っているな」
「兄上、あの魔王がいけないのです!」
王族側が用意されたお茶はさすが品質が良くて美味しいですね。このような緊急のことでも速やかにご用意されるとはさすがです。本来であれば、怒号の中でなく落ち着いた環境で楽しく語らいながら飲むことが好ましいでしょうが。
「サンドラ!なんなのその態度は?王子が話されているのに失礼ではなくて?」
「ブランシュ嬢の言う通りだ!」
ではどのような態度で臨めばよいのでしょう。
王宮にはこのことを報告していただかなければなりませんね。帰宅したらお父様にもお話いたしましょう。折を見て、オスクリタへ報告するのも良いかもしれません。
「では、私に何を求められているのかをお話しいただけますでしょうか?私にも予定がございますのですが、」
「ふん、貴様ごときの予定よりも王族の呼び出しの方が重要であろう!不敬だぞ!」
「そうよ、お友達もいない貴女なんか、」
「あら、勘違いをなさっているようだけど、私は今アレックスの友人としてこの場にいますのよ?ブランシュ嬢の瞳には私は映っていらっしゃらないのかしら?」
「あ、それは、」
カミラはお昼の件から相当怒りを溜め込んでおられるようです。
「たびたびすまないな、アレクサンドラ嬢」
「...いいえ、慣れましたわ」
「あ、ああ」
お茶を再び飲みます。オスクリタも好みそうなお茶ですね。今度似たものを用意してみましょうか。アメリアやリリーはもう少しすっきりした飲み口の方が良いかもしれません。
「はあ、先にブランシュ様のお話をしていただけますか?食堂での件ですわよね?」
こうして第2王子と協力している限りだと外交パーティーのことも含まれているでしょうが、早めに片付けておいた方が楽そうです。
「貴女、そんなに上から目線で何様のつもりなの?私がいなければ何もできなかったくせに!汚らわしい魔石をアクセサリーとして身に付けたり、陰気臭い本をいつまでも読んだり、暗くて嫌になるわ。知ってる?貴女今では他のクラスの方々から笑われているのよ?淑女として失格で本当に野蛮だわ」
延々と私の悪口を述べていて飽きないのでしょうか。まあ、最近淑女どころか乙女ですらないと言われたところですので大した攻撃にはなりませんが。つんざくような高い声で罵り続けるのはおやめいただきたいところです。
いつの間にかカップからお茶もなくなっていたようでお代わりをお願いします。その間もしゃべり続けるその持続性を褒めるに値するのでしょう。
「全く、伯爵家よりも侯爵家の方が上なのは誰でも存じ上げていることでしょうに」
話を流していると、カミラが頭を押さえました。疲れているようです。
「階級的にはそうだな。それで、ブランシュ嬢はアレクサンドラ嬢に何を求めているのだ?」
「私はただ、他人を馬鹿にされたようなサンドラに注意がしたくて、それに、魔族と踊るだなんて、汚らわしいわ」
「そ、そうだ、しかも同性同士で踊るなど品位にも欠ける。魔族の忌まわしい風習を表して楽しいか?」
「魔王様にお聞きしましたが、エスコート役は王族の方が務められることになっていたそうですわね?ダンスのお相手がいらっしゃらないと伺いましたので、私がエスコート致しました。問題がございましたでしょうか?ジャクソン様」
「いや、こちらの不手際に対応してくれて感謝している」
「魔族の忌まわしい風習とはどのようなことが存じ上げませんが、同性間での婚姻について仰るのならば、王国法でも認められているはずです。まさか、王族の一員であらせられる第2王子殿下ともあろうお方がそのようなことを仰るだなんて、」
ジャクソン様は青ざめ、第2王子は顔を真っ赤にしています。調査した限り、オスクリタのエスコートは第2王子が務める予定だったそうです。しかし、第2王子とその派閥者が途中で拒み、恥をかかせようとしたのだとか。それを棚に上げて何ともまあ。
「だ、だが、いや、あの魔王を庇うなど、貴様まさか謀反を企てているのか!?」
「あら、この度友好協定を結びたいと国王陛下直々に申し上げられていましたのに、招待された方を丁寧に心を込めて持て成すのは当然のことですのに。王宮から発せられたお言葉は偽りだったのですか?」
「そ、そのようなことはない!ジェイコブ、口を慎め!」
「しかし、無礼を働いていたのは、」
「魔王様にお聞きしましたわよ、随分と無礼な態度を取られてそうですね?」
「何を言って、」
「カミラ、少し耳を塞いでいてくださいまし」
「え、ええ...」
念のため、範囲を指定して防音の魔術も掛けます。
「確か、婚姻のお申し込みをする際に、夜伽のことについてお話されたようですね?」
「そんなことを話したのか?」
「お恥ずかしい淫らなお姿を映像として保管させてもらえないか、婚姻をお断りすると奴隷として契約を結ばないか、など」
「それは、」
「魔王様はまだ成人を迎えられていないというのに、そのようなおぞましいことを仰るだなんて、とてもショックを受けられていましたわ」
今度は逆にジャクソン様が顔を真っ赤にし、第2王子が顔を青ざめさせました。
「外交パーティーでの魔王様は大変美しかったですから縁を結びたくなった殿方は多いのでしょう。友好とは何なのでしょうね」
魔術を解除します。さて、お話はここまででよろしいでしょうか。
「...アレクサンドラ嬢、改めて話をする機会を設けていただけないだろうか?」
「それはご命令でしょうか?」
「いや、お願いだ。できれば、魔王殿も共に」
「確約はできかねますが、調整してみますわ」
「感謝する。教室の使用時間が終わりそうだから、今日は解散とする。このことは父上にも報告いたすこととしよう」
「魔界と真の友好が結ばれますよう、願っておりますわ」
そう言って私達は退室しました。
カミラには何を話したのか聞かれましたが、ショックの大きいことはできるだけお伝えすることは控えたいのでどうにかごまかします。
その後、王宮で大きな雷が落ちたとお聞きしましたが、私の関知することではございません。




