真の友好
「そういえば、リックはどうしたのじゃ?」
「お兄様は騎士団の団長としてお仕事をされていますわ。参加したいと仰っていましたが、警備には精鋭を付けたいとのことで残念ながら」
「そうであったか、礼を言おうと思っていたのだがな」
「伝言がありましたら伝えますわ」
「それなら、手紙を渡してもらえぬか?」
「かしこまりましたわ」
休憩室にいるのは私達だけです。やはり、近寄りがたい何かがあるのでしょうね。こんなにもオスクリタは愛らしいのに。
「アレックス、どうかしたか?」
「いえ、どうしたら多くの方々に魔王様を親しみやすく感じるのかを考えていましたわ」
「我は、我のことを慕ってくれるものが少しでもいたらよいのだが、それこそアレックスのような者が」
「どうしてこんなにも魅力的であるのに...」
先ほどのダンスもカミラ曰く見惚れるくらいには素敵だったとお聞きしました。積極的な殿方であればダンスのお誘いをしてもおかしくないはずですのに。
「アレックス、目的を忘れてはおらぬか?」
「思えておりますわ。それに、聴覚強化を使用して噂話を収集いたしました。妖しい方を3人まで絞り込むことはできましたわ」
「さすがじゃな。では、」
どなたかが扉の前にいるようです。オスクリタにアイコンタクトを送り、防音の魔術を使用します。オスクリタは姿を消す魔術を私にも掛けました。
「何だ、誰もいないではないか。ささ、こちらへどうぞ」
休憩室に入って来たのはアンシア男爵と外国の貴族です。魔術のおかげで私達には気づかれていないようですが、これは要注意です。アンシア男爵は例のリストに入っていますから面白いお話を聞くことができるかもしれません。
そっと録音の魔術具を起動します。
「それにしても、交流の場に魔族を招待するなぞ、貴国の王は何を考えているのだ?ましてや友好関係を築きたいなぞ、気でも触れたのかと思ったぞ」
「仰る通りだと存じます。私も再三にわたり、進言したのですが、聞き入れてもらえず、それどころか、第1王子が魔族に敵意などなかったと世迷い事のようなことを仰るものですから。その言葉に国王陛下も騙されてしまったようで」
「早々に代変わりをした方がよいのではないか?」
「まさにその通りで。例の計画が上手くいけばよかったのですが、邪魔が入ってしまい、」
「たかが小娘に邪魔をされて失敗するなぞ情けない話だな」
「そ、そう仰らずに、今度こそは上手くいく予定です」
「ほう?」
「実は、この城の中に魔獣を引き入れる用意がありまして、それを魔族のせいにしてしまえばよいのです。ついでに邪魔な小娘を狙うよう暗示をかけておけば葬り去ることも可能かと」
お話を聞くだけで手が出てしまいそうになるのは久しぶりの感覚です。気が済むまで殴、いえ、拳を披露した後に記憶を消した方がよろしいでしょうか?
いえ、落ち着くのよ、アレクサンドラ。今はまだダメよ。ひとまず、急ぎでこのことをお伝えしなければなりません。騎士団への協力要請もしなければなりませんわね。
オスクリタも同じ考えのようです。私達は扉の方でわざと音を手てから外へ出ました。
録音をお聞きになられた各国の代表者はお顔を真っ赤にされて怒っていらっしゃりましたが今はそのことよりもやるべきことがございます。
魔獣がどのように放たれるかがわからない以上、できることをするのです。
「アレックス、こちらの用意は済んだぞ」
「では、使用を始めますわ」
会場全体を覆うような結界を張り、騎士団の方々には魔獣の討伐を依頼しました。私もお手伝いしたい気持ちに駆られましたが、お母様に窘められました。アリバイ作りのために各国の代表者の方々とおられるよう言われたのです。
「魔王殿、アレクサンドラ嬢、この度は協力心から感謝する」
すべての魔獣の討伐が終わった頃、国王陛下からそのようなお言葉をいただきました。それから、魔族側に起こった今までの不都合も正式な謝罪があり、今後は真に有効的な関係を築けるように努力なさるようです。
魔王がそれで良いというのであれば私からは何も言うことはございません。
そうして、私達はもう一度ホールの方へ戻りました。スイーツが振る舞われる時間をぜひとも楽しんでほしいと言われたからです。
並べられた中からいくつかを選び、口にするととても美味しく感じられました。魔装も同じようで顔がほころんでいます。
捕らえられたもの達のことはわかりませんが、今はこの楽しい瞬間を味わうことが何よりも大切なことなのでしょう。




