いざ、入場
交流パーティーの今日、朝から屋敷はあわただしい様子です。かくいう私もその渦中にいるわけですが。
「お嬢様、お化粧をしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いしますね」
今日は何となく緑色のドレスを選択しました。安全かつ綺麗な色の染料が開発されたことをお披露目するためです。オスクリタも緑色のドレスを気に入ったようでそちらを着られるようです。デザインは違いますが、お揃いのようでうれしく思います。
「お嬢様、こちらでいかがでしょう?」
「ありがとうございます。髪飾りは最近作ったものを、」
「かしこまりました」
身に着けるアクセサリー類には魔石を使用しており、もしもの時のための御守りも兼ねています。そして、もしもの時のためのペンダントも身に着けておきます。
「本来ならば何もないことが1番なのですが」
「アレックス、どうかしら?」
「オスクリタ、お似合いですわ」
「ありがとう。魔石の御守りまで用意しているとは思わなかったけれど」
「もしもの時のためですわ。王冠とも調和しているようで安心しました」
「ええ。アレックスと同じ色だなんて嬉しいわ...アレックス、浮かない表情をしてどうしたの?」
「いえ、パーティーの時にオスクリタが嫌な思いをしてしまったらどうしようと思いまして、」
他の方々に心無い言葉を投げられて傷つかれないかが心配です。いざとなれば記憶を消す方法を使うつもりですが、それでも対処しきれない場合もあります。
「まあ、そんなことを憂いていたの?」
「そんなことって、」
「私は魔王よ、そのようなことでは傷つかないわ。それに、今は私の味方がたくさんいるもの。大丈夫よ」
「オスクリタ...」
「でも、心配をしてくれてありがとう。アレックス」
「なんですか?」
「出発するまで手を握っててもいいかしら?」
「もちろんです」
魔王としての彼女は誰よりも気高く、強い存在です。そうなれるように努力をされていることでしょう。しかし、今こうして微かに震えている姿はただの少女です。
私には勇気づけることしかできませんが、それでも力になれるのであれば、そばにいましょう。
「アレックス、オスクリタ、出発の時間よ」
「ええ。わかりましたわお母様」
「では、参ろうぞ」
オスクリタも魔王モードに切り替えたようです。もう一度、御守りやドレスの確認をして馬車へ乗り込みます。
「アレックス、そんなに硬い表情ではダメよ」
「お母様...」
「淑女たるものいつでも優雅な笑みを浮かべなさい。不安や動揺を悟られてはいけません」
「はい、そうですわね」
「旦那様風に言うならば、狩りの時に獲物に侮られないようにするのと同じよ」
「わかりましたわ。淑女として、コリン家の娘、アレクサンドラ・コリンとしてこの局面を乗り切って見せますわ」
「いつもの調子に戻ったわね」
いつの間にか馬車は王宮へ到着したようです。
手荷物の検査を終えると会場へと案内されます。一般の招待客が入場をした後に各国の代表者が入場する予定です。周囲を見渡すと学園で見たことのある方やパーティーで見かけたことのある方々がいます。
社交界の華と呼ばれているお母様といるためか注目を浴びてしまいますが気にしないように努めます。お母様に話しかけたそうにしているご夫人や令嬢が見受けられますが、実行に移そうとしている方は見当たりません。
周囲を観察していますと、会場内がどよめき始めました。最初の来賓の方々が入場されたようです。
私はオスクリタが入場されるのを今か今かと楽しみにしながら扉の方を見つめました。




