理想は高い
「アレックス、少しいいかしら?」
「カミラ、どうかされましたか?」
「この場では少し、」
話しづらい内容なのでしょう。私は頷いて人の少ない場所へ移動しました。
「カミラ、どうかしましたの?」
深刻な表情をされています。何か重大な悩みでしょうか?
「実は、ご相談がありまして、」
「ご相談、ですか?」
「ええ。実は、グレイソン・ワグナー様との縁談が持ち掛けられておりまして、」
「カミラが、ですか?」
「そのようなの」
考えてみればグレイの家とカミラの家は同じ派閥でしたね。家同士の関係性や階級を加味すると可能性は十分にあり得たことなのでしょう。カミラのお姉様には婚約者がいてもおかしくない年齢ですし、グレイは未だ婚約者の話を聞いたことがございません。
「えっと、何かお困りですか?」
「だ、だって、あの、グレイソン様よ?」
「まあ、確かに」
見目は整っていても性格に難があります。気が重いのは頷けます。
「容姿端麗。成績優秀で紳士的。そんな方との縁談だなんて、」
「荷が勝つのであれば、そのお気持ちを正直にお話された方がよいと思いますが、」
「そ、そうではなくて、その、」
「その、?」
「どうしたら釣り合えるかを考えていて、アレックスは仲が良いから意見を、」
「つまり、縁談を好意的に思ってるということで良いのですか?」
「も、もちろんです」
カミラの言葉に嘘はなさそうです。それにしてもグレイとは、ブランシュ様や他の女生徒にも人気だなんて、普段どのように取り繕っているのでしょうか。アウロラ様がお聞きしたらきっと驚かれますわ。
「あのような素敵な殿方との縁談だなんて、身に余る光栄ですわ。ですが、あまり自信がなくて、」
カミラはグレイがどのように素晴らしい方か話始めました。私が聞く限り普段の様子と一致しなくて混乱してしまいそうです。
とりあえず、多くの情勢にとってグレイが理想であることは理解しました、表面は。友人としてキラキラした目で話すカミラの理想を壊したくない反面、普段との違いに突っ込みを入れたい気持ちがあります。どちらを優先すべきでしょう。
いいえ、考えるのよ、アレクサンドラ。今私が優先的に考えなければならないことは何?カミラの幸せよ。グレイがもしもカミラにひどい対応をされるのであればきちんと改めるよう言い聞かせるのです、もしもの時はお兄様にも協力を求めましょう。
「アレックス?」
「いえ、縁談を受け入れた場合はどのようなことをなさるのでしょうか?カミラが打診を受けた側ですから決定権はカミラにあると思うのですが」
「私にもわからないけれど、今度お食事会をすると聞いたわ。その時に刺繍を入れたハンカチをお渡ししたいのだけど、どのような模様がいいかしら」
「カミラのお好きな花でよいと思いますが。刺繍講座もしますしその時に考えてみては?」
「そうするわ。そ、それと、グレイソン様の好みについて聞いても、」
どうしましょう、グレイの好みについてはよくわかりません。気にしたこともありませんでしたから。そうです、こんな時こそ頼るべき方々がいらっしゃります。
「それで、俺たちか」
「ええ、ジャクソン様もノア様もグレイと親しくされていますからぜひ、悩める女生徒に応えてあげてくださりませんか?」
放課後、アウロラ様にも同席をお願いし、お聞きしました。もちろん、カミラの名前は伏せています。
「アレクサンドラ嬢が知りたいのではないのか?」
「あら、私はその必要はないと存じますわ」
「そ、そうか、あの時のことをそんなに怒っていたのだな」
「まあ、確かに、グレイソン様の好みについてお知りになりたい女生徒は多いと思いますわ」
「そうなのか?」
「とても人気な方ですから」
アウロラ様の助けもあり、いくつかの情報を聞くことができました。
聡明で優しさを持ち合わせ、元気がありつつも慎ましさもある互いに尊敬できる方、ということでしょうか。大変理想がお高いようですね。
隣のアウロラ様も難しいお顔をされています。そもそも尊敬に関しては思われるかどうかは個人差がありますし、何をもって尊敬するかもよくわかりません。
「魔術や武術に優れているとなお良いそうだ」
「それは、難しい条件ですわね...」
「そうですね、理想の前にご自身がそのような女性と釣り合えるのかを考える必要があるのではなくて?」
「あ、アウロラ?」
「言動から推測できる好みですが、それでもちょっと、」
「ま、まあ、実際にはことなっている可能性もあるから、な」
私の好みについても聞かれそうな雰囲気をどうにか回避して、外交パーティーの話題へとすり替えます。当日の警備や催しや参加される国についてですが情報は多いに越したことはありません。助言として、例の噂の出だしについてヒントを出し、私達は下校しました。




