ジャクソン様の成果
ジャクソン様の報告により、魔族に対してすぐに攻撃を仕掛けるという話はとん挫したとお父様が教えてくださりました。
お父様は魔族を敵とみなす考えを改めた方がよいと主張していましたが、その主張が受け入れられ難く頭を抱えたいたそうです。今回の報告のおかげで主張が通りやすくなり、仕事がスムーズに進むようになったと大変喜ばれています。魔族とは友好的な関係を築く方針へと舵を切ることになり、周辺諸国の代表や王族を招く大規模な外交パーティーにも魔王を招待するそうです。
「やはり、エスコートをするのはオスクリタのエスコートは俺がすべきだと思うのだが、」
「魔族の代表者が行うとオスクリタが仰っていましたわ」
お兄様この調子です。騎士団としての職務もあるでしょうし大丈夫なのでしょうか。私もパーティーに招待されたため、準備を整えなければなりません。それに、お兄様がどなたかのエスコートを務められるならば、お母様は私に付けるでしょう。婚約者もいないため、隙を与えるべきではないとのことです。
「そうか、君も招待を受けたのか」
「ええ、あまりにも恐れ多いため気は向かないのですが、ご招待をいただいた以上、義務は果たさなければなりませんわ」
ノア様も招待されたようです。
学園内は魔族と友好協定を結ぶこととなった噂で持ちきりで中には不安な表情を浮かべている学生がちらほらいらっしゃります。不安そうな方々に混ざられている過激なことをされる方にはどう対処すべきか頭を悩ませているジャクソン様を見かけました。
「随分と他人事なのだな」
「そうでしょうか?私にできることなど限られていますから」
そう仰るノア様も随分と他人事です。
実際問題、王族の方々にしか対処できない問題なので仕方のないことなのですが、助言くらいはさりげなくした方が良いのでしょうか...。いえ、これも王族の業ですのでやはり自己解決を期待しましょう。
「それで、調べ事は終わったのか?」
「新魔王の話を出した方ですよね?ある程度は絞り込むことはできましたわ」
水面下で活動を続ける第2皇子派閥の者たちでしょう。得をするのは彼らくらいでしょうから」
「ほう?何故断言できる?」
「新魔王が誕生したとして、防衛面を強化し、税金を上げて数年間にわたり何も起こらないとなると国民から不安が湧いてくるでしょう。その責を自派閥に属さない王子に擦り付けることができ、点数稼ぎが上手くいけば国民からの支持を得られます。逆に、攻め込んだ場合、魔族から痛烈な抵抗を受けることでしょう。関係が今以上に悪化してしまえば魔術発展に多大な影響を及ぼすこととなりえます。侵攻の失敗を他の方に押し付けてしまえば傷つきませんし」
魔術発展に関してはそこまで思い至れる方がおられるのか議論の余地がありそうですが、どちらにせよ、第2王子以外の王族の評判を落とすことは可能です。王族の中で最も実績がないのは第2王子ですから。
「なるほどな。確かに、次期王はジャクソン殿と言われているからな。今回の魔界訪問でもさらに株を上げたことだろう」
「後は特定ができればよいのですが、それにはもう少し時間が欲しいところですね。裏をかいて第1王子派閥の仕業の可能性も考えましたが、リスクが大きすぎますし」
「本当に大変そうだな」
「他人事ですね」
「そうだな」
私達はそう少し笑って、魔術書に目を通しました。
こちらにもやるべき課題はたくさんあるのです。幸い、調査報告はもう少し時間をかけても問題ありませんし、後回しでも良いでしょう、それこそ、交流パーティーの後でも。
「アレクサンドラ嬢、少し聞いても良いだろうか?」
「なんでしょう?」
「君は魔族に対してどう思う?」
「どう、とは?」
質問の糸は何となくわかります。ノア様も悪感情は抱いていないようですし。魔王との出会いについては驚かれていましたが、それだけのことです。
「私は、魔力が高いだけで何も私達と変わらないように思います。ただ、命を授かり、生きているだけ。そこには上下も優劣もないと思います」
「そうか。俺も心底そう思うよ」
ノア様は少しだけ悲し気に微笑まれました。
口で種族による差別はいけないことであると言うことは簡単なことです。しかし、ノア様がそのことに対して本当に憂いていることが伝わってきます。
正義だなんて片方の主張でしかないのですから。そのような薄い言葉で同情されても魔王はきっと怒るだけでしょうね。
「そろそろ下校時間ですね」
静かな空間に私の声だけが響きます。ノア様は静かに頷いて帰り支度を始めました。




