帰還
今回は短い滞在の予定でしたのですぐに帰る時はやってきました。
「アレックス、これを持っていくがよい」
「これは?」
「お主の助けになるはずじゃ。また会える日を楽しみにしておる」
「私もです、魔王。今度はこのような公的な目的ではなくて私的にお会いできると良いですね」
「そうじゃな」
相変わらずジャクソン様は緊張されているようですが、目的も果たすことができたでしょうし移動の準備をしなければなりません。この訪問で魔族や魔王に対する認識を変化させることができたのなら大成功といえるでしょう。
それに、新たな魔王の誕生という偽の情報を流した者を探さなければなりません。ジャクソン様ができそうにないのならばこちらが積極的に動かざるをえません。
「王子よ、其方の勇敢さは称えるに値する。しかし、慎重に考え行動することを勧めておくとしよう。我は、この地に住まう民たちが穏やかに暮らせることを望んでおる、故に、其方らの領土を侵すつもりはない。だが、其方らが我らに牙を剝くというのであれば、こちらとしても容赦するつもりはない。我の全ての力を持ってして抵抗を続けることとなるだろう。そのことを王に伝えておくが良い」
「かしこまりました」
「では、気を付けて帰るのだぞ」
お見送りを受け、私達は転移してきた場所へ戻りました。
転移陣を起動させます、行きよりも酔いは軽減されているようで、体調を過ごす者はいらっしゃりませんでした。
王宮へはすみやかに今回の成果が伝えられます。
魔族に敵対心はないこと、しかし、それらは王国の魔族に対する敵対心によるということが報告されました。
魔族と争わなくても良いことを喜ぶ者と残念がる者と反応は大まかに分かれ、残念に思われていた者たちを中心に調査を進めていくこととなりました。ジャクソン様も一応は平気だと思いますが、しばらくの間観察を続けていきます。
「リック、アレックス、おかえりなさい」
「お母様、ただ今戻りましたわ」
「オスクリタは元気だったかしら?」
「ええ。元気そうでしたわ」
屋敷に戻るとお母様が魔界での出来事をお尋ねしてきます。詳しい話はお茶の時にすると約束をしてから荷物の整理に移ります。
お土産はお茶会室へ運ぶように指示を出し、自分用に購入したものはそれぞれ棚へ納めていきます。思い描いていたよりも多くの薬草が手に入ったことは喜ばしいことです。
「お嬢様、こちらはどうしますか?」
「後で読む予定だから机の方へ、」
「かしこまりました」
ある程度片付けが終わり、下がってもらってからオスクリタに貰った小箱を確認します。小箱には空間圧縮の魔術が使われていたため、多くのものを取り出すこととなりました。
魔石に魔獣の角、薬草に、それから、
「これは魔術具でしょうか?説明書もつけられているようですね」
オスクリタの手書きの文字には魔術具の概要が書かれています。光の魔術具であり、古代に作られたものだそうです。このような貴重なものを良いのでしょうか?
いえ、それだけではありませんね。これは真実を写すことのできる鏡ですが、それだけではないようです。試しに魔力を注いでみます。4属性をバランスよく注ぐと鏡が光を放ちました。
「アレックス、聞こえるかしら?」
「オスクリタ、やっぱりね。隠し部屋へ移動するので少し待っていただけますか?」
そう言いながら私は本棚の裏の隠し部屋へ移動しました。調合器具や魔石が机の上に所狭しと並んでいますが、今は片付けをしている暇はありません。
「驚かせてごめんなさい。魔術具の起動が確認できたからこちらも繋いだの」
「これは通信の魔術具の一種ですよね?どうしたのですか?」
「言ったでしょう?貴女の助けになるって。真実の鏡の裏機能を貴女なら扱えると思っていたわ」
「起動にはかなりの魔力が必要でしたが、」
「ええ。普通の人間に扱うことは不可能でしょう?だから持っていてほしいの。これがあればいつでも連絡を取れるでしょう?」
「そうですね。ところで、私以外の方が扱ったらどうなるか聞いてもよろしいでしょうか?」
「気が触れることになるでしょうね。リックやおば様なら平気だと思うわ」
これは厳重な管理が必要となりそうですね。
詳しくお聞きするとどうやら勇者の遺物と呼ばれるものの1つらしいです。貴重なものですが有り難くいただくことに致しました。
お礼として、これを基に真実を写すことに特化した魔術具を制作し贈ることをお伝えするととても喜んでくださりました。
通信を終え、隠し部屋から出て時刻を確認するともうじきお茶の時間です。私はいくつかの者を持ってお茶会室へと向かいました。




