小さな火種を消すために
昨日の夕食の時、お父様とお兄様から例の魔術具についての報告を受けました。宮廷魔術師や衛兵の方々は隅々まで細かい確認をせずに魔術具を通したとのことです。商会を信頼していたとのことですが、不具合の報告も挙げられていたものに対して細かい確認を取っていないなんて危機意識が低いように感じられます。
お兄様は騎士団による商会の立ち入り検査について話してくださりました。素材の品質が低いこと以外に特筆すべきことはなかったとしたものの、やはり魔法陣のことが気になり、魔石に魔方陣を刻む印を押収したとのことです。
「それが、こちらですわ」
「そんな重要そうなものを持ち出しても大丈夫なのか?」
「こちらはレプリカですわ。それに、お兄様に許可はいただきました」
「なるほど。やはり、魔石の写しよりも細かい部分が見えるのは良いな」
「そうですね。こうして見ると、特にかけている部分はありませんね。書き写してみましょう」
紙に書き写してみると、魔石には3つの魔法陣が刻まれていたことがわかりました。
「発光、遠隔、それと、録音、でしょうか?いえ、通信のような気もします」
「通信の魔法陣を試みたことが?」
「ええ。昔に、屋敷内でお兄様と試したことがございます。いくつかの条件があり、改良が必要だと考えていたのですが、こちらは録音をベースに作られているようですね
「そのようだな。目的は何なんだ?」
最近、国際情勢で大きく変化したことを考えてみましょう。確か、表立った事柄はなかったように感じられます。強いて言えば、お隣の帝国が軍事事業を強化していることくらいです。
「軍事事業をか?」
「ええ。軍事費用を増加するために税金の引き上げや武器産業を広げていると耳にしました」
いくつかの武器もわが国で輸入していたはずです。しかし、扱いやすさの観点から使用している方はあまり見かけません。
「帝国とは条約を結んでいるのか?」
「不可侵条約を。昨年がちょうど50年記念で、いえ、改めて書面が交わされたとは聞いていませんわ。もしかして、」
「ああ。魔法陣の下の方の文字だが、帝国特有の書式のように見える」
「不可侵条約の件についてはお父様に改めてお聞きしますわ。問題はこれの目的ですわね」
「そうだな、それを考えよう」
「普通に考えますと、侵略でしょうか?しかし、軍事同盟を結んでいたこともありましたのに何故急に」
「ここ数年はどこの国も戦争は起こしていないはずだ。だが、天候不良などによる食糧問題などは起こっていたはずだ」
「ええ。わが国では安定的に作物が取れ、供給できていますが他国は違うことはお聞きしています」
「ああ。輸出も盛んに行っているだろう?」
「ええ。長期的に保存ができる作物はそうですね。その対価として様々なものを輸入していますが、」
「作物は民にとって重要なものだ。安定的に作物が取れる土地が欲しいのはどこの国も変わらない」
「そうですね。それだけではないような気も致しますが」
「それは国の上の者が考えることだろう。学生ができることはたかが知れているからな」
「仰る通りですわ。憶測にすぎませんし。ひとますは魔法陣の報告を上げて様子を見ましょう」
私達は国政に携わるような立場でも兵士でもありません。
余計なことをしてわざわざ目に留まるようなことをする必要はありませんね。
きっと、ノア様も私と似たようなお考えをされているのでしょう。私達は改めて、魔法陣の考察と改善案などを上げてレポートにまとめました。
この結果は速やかに国王陛下並びの側近の方々へ献上され、今後の動きの参考にするとともに、魔法陣については宮廷魔術師や魔塔の方々の新たな課題として研究がされるようになったそうです。




