私の休日
「さて、始めましょうか」
翌日、私は自室で道具の整備を行っていました。
本来ならばお買い物をしている時間帯ですが、キャンセルになったはずですので今日は好きなことを楽しみます。
お買い物はまた今度リールとゆっくり行くつもりです。
「お嬢様、こちらの魔石はどういたしますか?」
「確か、品質は普通くらいのものだったわよね?」
「そうですね。お嬢様の装備を作るとなると心もとないように思えます」
「そちらは後ほど加工して御守りにするわ」
「御守りですか?」
「ええ。総合的には普通ランクだけどこれは微かに火魔法の個性が感じられるわ。お兄様が今度遠征へ出かけられるそうなのでその時にお渡ししましょう」
次の遠征は赤の大地と呼ばれる場所です。きっと役に立つでしょう。それから魔石をいくつか選別していきます。
御守り以外にも日常的に使用できるものを作成してもいいかもしれません。小さな魔石はアクセサリーにすると素敵でしょう。
「リール、普段使いをするための髪飾りが欲しいのだけど、」
「かしこまりました、衣装係に話を通しておきます。お嬢様を着飾るためのデザインアイデアを生かすことができると喜ばれると思います」
「お願いね。それと、針と糸を用意してもらえる?」
「はい。こちらにございます」
裁縫道具を受け取り、私は愛用しているマントを広げます。このマントにはあまり目立たないように魔方陣が刺繍されています。
すでに縫われている守護の魔法陣を修正しつつ昨夜読んだ本に出てきた魔方陣も新たに縫っていきます。古代の魔法書のもので複雑ですが幸い、時間はたっぷりあります。休憩をはさみつつ進めていけば今日中に終えることができるでしょう。
「ふぅ、半分は終わりましたね」
時計に目を向けるともうじき昼食の時間です。残りは午後にしましょう。
「アレックス、落ち込んで部屋から出られないと聞いたが平気か?」
「お兄様、おはようございます」
「何を平気な顔をしているんだ!学園でのことは聞いたぞ。幼馴染としてお前を守るようグレイに言っておいたのに、」
「あら、グレイに守られるほど私は弱くありませんわよ?」
「はは、そうだったな。大変だっただろう?ゆっくりと休め」
「いえ、きちんと縁を切ることができたと思いますし、私はもう平気です。それに、昨日から久しぶりに好きなことができています」
「そうか。今日は何をしているんだ?」
「魔石と装備のメンテナンスです。そうだわ、お兄様にお渡ししたいものがありましたの、受け取ってくださいますか?」
「もちろんだ、何をくれるんだ?」
「昼食の時にお渡ししますわ、楽しみになさってください」
少しだけ庭園を眺めてから部屋に戻り先ほどの御守りを包装します。さて、昼食を摂りに食堂へと向かいましょう。
道中、使用人たちからも心配のまなざしを向けられましたが笑顔を向けると安心したようでした。こんなにも心配をおかけしていたなんて心が少し痛いです。
「アレックス姉上、体調は大丈夫ですか?」
「テオ、心配をおかけしましたね。大丈夫ですよ」
「それなら良かったです」
昼食は和やかです。忙しくて夕食しか共にできないお父様もいらっしゃいます。
お父様もお母様も私を気遣い、優しいお言葉をかけてくださいました。もう平気ですとお伝えしても私が耐え忍んでいると思われている様子で、気分が優れないようであれば学園をしばらくの間休んでもよいとまで仰ってくださいました。
「お父様、お母様、お気持ちは大変うれしく思うのですが、私とて、コリン家の娘。このようなことで躓くわけにはいきませんわ」
「だが、とても傷ついているだろう?」
「確かに、そうでした、しかし今は平気です。あの方は私を傷つけることを何とも思われない、私に害を為す方。ですので極力関わり合いにならないように致しますわ。害を為すものは必要ありませんもの」
「そうだな、私もブランシェ伯爵との取引を考え直すべきだと思っていた。いい機会だこれを機に見直してみるとしよう」
「アレックス、つらいことがあったらいつでも言うのよ?」
「ありがとうございます、お母様。何かありましたら1番にお母様に相談しますわ」
食事の終わりに私はお兄様に御守りをお渡ししました。効果について説明するととても喜んでくださり、遠征先で珍しい物や質の良い魔石を見つけた際にはお土産として持って帰ってくださると約束してくださいました。
それを見ていたテオが羨ましそうに頬を膨らましていましたので明日は一緒にお茶をした後に遊ぶ約束をしました。私ばかりお兄様を独占してはいけませんものね。
「アレックス、マントの刺繍はどのような感じなんだ?」
「今は古代の魔法陣を塗っている最中です。その上からカモフラージュの刺繍をいくつか施してから完成ですわ」
「古代の魔法陣か、興味深いな」
「完成しましたらお兄様にもお見せいたしますね」
昼食後、お茶の時間の前には終えることができました。残りの時間はテオにお渡しする御守りを作りつつ、古代所の続きを読むことにしましょう。
リラックスしているはずなのにリールにはもう少し休むように嘆願されてしまいましたが、何だか久しぶりに休日を満喫できたような気がして楽しい日でした。