きっと大丈夫
魔術には様々な種類があります。
日常生活で用いられる基礎魔術、新たな技術開発や研究に用いられる研究開発魔術、特別な条件下でのみ使用される特殊魔術、そして、主に討伐などの戦闘で使用される戦闘魔術です。
最も用いられるものは基礎魔術ですが最近では魔石を使った道具が多く流通しているため、人々が実際に魔術を使い何かを行うということは少し前に比べて減少傾向にあると伺ったことがあります。
学園でも魔法や魔術の授業は筆記テストに比べて実技テストを行う機会は減り、さらには求められるレベルも低下していると以前お父様が仰っていました。
さて、私が先ほど魔獣に向け使用したものは戦闘魔術と呼ばれる類のものです。主に騎士団の方々が討伐のために使用されるものです。戦闘魔術は3年生の座学で流されるように教わり、さらには実技テストが存在いたしません。
すなわち、
「お聞きになった?コリン様ったら戦闘魔術をお使いになったそうよ」
「聞いたわ、魔獣相手に。それもクラスメイトの前で容赦なくお使いになったらしいわ」
「見た目にそぐわず野蛮な方なのかしら?怖いわ」
「そういえば、昔にそのような噂があったような気がするわ」
このようなお話が広まってしまったようです。主にブランシュ様の取り巻、、お友達を中心に。
先生方が到着する時、他のクラスの生徒も数名いらっしゃったようで、お部屋前の廊下の魔獣を目撃し、事情聴取の末、私が行ったことだとお話いたしました。
結果、現在のように噂が様々な方向へと飛んでいき、悪意の持ったものまで生まれたとのことです。
「サンドラ、やっぱり貴女は昔のままなのよ」
ぼんやりとしていると、ブランシュ様が現れました。遠くの方にはお友達の方がいらっしゃり、こちらを指さしながら笑っています。
「淑女らしくなくて、可愛らしくない、魔法と魔術ができるだけ、それが貴女なの」
「そのようですね」
「魔獣相手に恐ろしい戦闘魔術を用いて汚らわしい魔石を得てそれを誇るだなんて野蛮だわ。捨てなさいって言った魔石をいつまでたっても所持したままだし。私みたいに優しい方じゃないと貴女を友達にするはずもないのに。惨めね」
冷たい風が頬をかすめていきます。ああ、雲が形を変えて流れていきます。
これからは時間を持て余す日々になりそうですね。
「貴女がどうしても、私とお友達に戻りたくて、成員誠意今までのことを誤ってくれて、その上私の言うことを何でも聞いてくれるなら、お友達にしてあげないこともないわよ?どうせ、貴女はもう1人なのだから」
ブランシュ様は勝ち誇ったようにそう仰ります。
「貴女はそうでもしないとお友達を作ることのできない可哀そうな子なの。わかるかしら?」
人と仲良くなるためには私は多くの努力をしなければならないことを知っています。この方とは良い関係であったとは言い難いですが。
きっと、以前の私ならそのような条件を飲むことを一度は考えたのかもしれませんね。でも、今は違います。
「お断りしますわ。私にとって害をもたらすものは必要ありません」
「はあ?何よ、その言い方。これからずっと、1人でも良いと言うの?」
「きっと、貴女といても私の心が満たされることはありませんわ。私は私のことを大切に思ってくださる方々といたいのです」
「ふ、ふん、貴女の暴力的で残酷な面を見たというのに仲良くしてくれると思っているの?無理に決まっているじゃない」
「そうだとしても、仕方のないことですわ。その事実をありのまま受け入れましょう」
「い、意味わかんない!そんなんだからいつまでも友達ができないのよ!」
ブランシュ様はそう捨て台詞を残してお友達の方々とどこかへ行ってしまわれました。
私はもう少しだけここにいたい気分です。
「はあ、魔獣を相手にするよりも仲良くしてくださっていた方々と顔を合わせることの方が怖いだなんて、私も弱くなってしまったのかしら」
「そんなことないと思うぞ?アレックス」
「お兄様、いつからいらしましたの?」
「目障りな虫が可愛い妹に害をもたらそうと話をしていたところからだな」
「最初からいらっしゃったのですね」
「気配に気が付かないなんてらしくないじゃないか」
ぼんやりとし過ぎたみたいです。
「今回はお手柄だった。お前が妹で誇らしいよ」
「そうでしょうか?淑女としては失格だったと思います」
「アレックス、お前は。お前らしくあればいいんだよ。昔言われたことを気にしているんだろ?」
「私の振る舞いのせいで多くの方が嫌な思いをしたとお聞きしましたから」
「あれはやっかみだと思うけどな。お前の勇気のおかげで負傷者は出なかった、誇ることはあっても恥じることはない」
「しかし、怖い思いをさせてしまった方もいらっしゃるでしょう」
「お前は本当に優しいな」
「そんなことありませんわ。先ほどだって冷たい言葉を発してしまいました」
「十分優しいさ、保身のために戦闘魔術を使わない選択肢もあった。だが、あれ以上の被害を出さないために戦ったんだ。それとも、保身に走らなかったことを後悔しているか?」
「いいえ。ただ、もう少し配慮が必要だったと思います」
「そうか。そう思えるなら大丈夫だ。お前が大切にしたい者たちのことを信じてやれ」
「信じる?」
「ああ。悪感情は抱いていないはずだ。何かあったら言えばいい」
お兄様は私の頭を少しだけ撫でてその場を後にしました。
私もそろそろ戻らねばなりません。
大切にしたい方々のことを信じる。きっと大丈夫ですわよね。
ゆっくりと深呼吸をした後、私はお部屋へと向かいました。




