どの武器がいいか
数日後、私達は部室で学園新聞を確認していました。実習のことは毎年記事になっているため、不都合なことがあった場合に対処するためです。
昨年の出来事は目撃者が少なく、また対峙した学生の記憶がなく彼らのケアを最優先にするために取り上げられることはありませんでした。まあ、翌月に学園の不思議という形で一部改変された形で流されましたが。しかし、信憑性があまりにもないために大事になるような事態にはなりませんでした。
さて、今回はどうでしょう?
「...。これは、班活動の様子ですわね」
「アレックス、いったいマシューに何をした?」
「魔術の特訓ですわ。これは、風属性の時のものですね」
「結構大変だったなぁ。しかし、おかげで丸太を1本引き裂けるようになった」
「...。本当に何を教えたんだ?」
次のページは、これは剣術の特訓のものですね。
「剣術も教えたのか?」
「ええ、ある程度身に着けておいても損はございませんから。何ですか?グレイ」
「いや、俺が必死に弟子にしてくれと頼んでも頑なに首を縦に振らなかったのにマシューは快く弟子にするのかと思ってな」
「マシュー様は弟子ではございませんわ。拗ねないでください、うっとおしい」
「な、仮にも俺は先輩だぞ」
「それならば情けない表情を晒さないでください」
「ま、まあ、2人とも落ち着いてだな、でも、その言い方だとアレクサンドラ嬢はグレイに剣術の指導はしなかったのかい?」
最近、私達が言い争いを始めると仲裁してくださるのはマシュー様です。他のお3方は諦め、というか慣れたご様子で意に介しません。
「以前も申し上げた通り、私にそれだけの技量はございませんでしたから」
「嘘言え、リックだってお前の腕はいいと言っていた」
「兄ですから贔屓目に見ていたのでしょう。それに、私とグレイでは得意とする戦い方が違いますから指南することはどのみち難しいと思いますわ」
「ほお、興味深いな。では、アレクサンドラ嬢はどのような戦い方を好むんだ?」
新聞を見飽きた様子のノア様がそう仰りました。どうやらめんどくさそ、いえ、少々失言をしてしまったようです。
「たびたびグレイが愚痴っていたからな。魔術が得意なのは知っているが体術や剣術はどうなのか気になっていたんだ」
「ああ、ノア殿は休憩時間にしかお話する機会がありませんでしたからね」
「武器コレクションを紹介したと聞いた時から気になっていたんだ」
「ええ...今持っている物だけでも紹介しましょうか?」
「ぜひ」
ちらちらとこちらの様子を伺っているジャクソン様は置いておいて机の上にいくつかを並べます。何故学園にもってきているのかは聞かないでいただけますと大変うれしく思います。まあ、お片付けするのを忘れていただけなのですが。気にせずいきましょう。
「禍々しいものが増えているようだな」
「ああ、グレイは見るのが初めてでしたわね。こちら、妖刀です」
「また怪しいものを買ったのか?」
「ええ、東方の国のものです。とても興味深い伝説をお持ちでしたわ。切れ味も良いですしお気に入りの1品です。あ、お手に触れない方が良いと思います」
いくつかを紹介すると商会や職人を紹介してほしいとお願いされました。まあ、今度マシュー様にご紹介する予定でしたし良いでしょう。
「そう言えば、マシュー様はどのような剣を購入されるのか決めましたか?」
「それが、どれが自分に適しているのかわからなくて悩んでいるんだ。アドバイスを貰えないだろうか?」
困ったそうに告げられるのでその相談に乗ることに致します。まずは戦い方を振り返っていきましょう。
「マシューは魔術が得意だしそこまで剣にこだわらなくてもいいんじゃないか?」
「いや、それだけではダメだとアレクサンドラ嬢を見て思ったんだ」
「ああ...」
「グレイ、何ですか?その目は。言いたいことがあるのならば仰ってくれるかしら?」
「得意なことを伸ばすのも大切だと思う」
どうも歯切れが悪いですが良しとしましょう。
「洞窟での後半、アレクサンドラ嬢は魔術を使わずに戦っていたんだ。驚いたが、僕もそうなれるようになりたいと思った」
「おい、アレックス、被害者を増やすな」
「被害者なんて今までいらっしゃりませんでしたわよ?」
「俺だよ、もしもマシューが怪我するなんてことがあったら、」
ああ、カーター家は非常に家族仲が良く、特に末の子のお嬢様や次男のマシュー様は家族にかなり可愛がられているそうです。そのような方にもしものことがあったならばまあ、お察しですわよね。
学園内で友人が離れられた時にも何か思うところがあったようですが、それは表に出されていませんでした。すぐに居場所ができたのも大きいと思いますが。
魔獣やモンスターとの戦闘時には怪我して当たり前だと思うのですが、それを他の方へ当てはめるのはやめた方が良さそうです。
「マシュー様は細身ですし、軽く扱いやすいものを今は洗濯してみてはどうでしょうか?」
「そ、それは、僕が力がなく貧弱だからということだろうか...。」
「アレックス、もう少しオブラートに包め」
ええ...。グレイにそう言われるとは思いませんでしたわ。
「成長期ですから筋力は後々ついてくると思いますわ。身軽でもありますし、全ての攻撃を受けきる必要もございません。防御が必要であれば土魔術を使えばよいですし」
「アレックス、必死だな」
「グレイ、少し静かにしてください。攻撃を受け流すという方法を身に付けましょう。その方が合っていると思います」
「しかし、アレクサンドラ嬢は受け流す以外もしていたような」
「まあ、状況に応じて変化をつけることも大切ですからね」
「ならば、こちらのレイピアや短剣、お、サーベルも軽いのだな」
「特注品ですわ。そうですわね、マシュー様はどうですか?」
「この中から検討してみるよ。また、稽古をつけてくれないだろうか?」
傷つけてしまった罪悪感があり断りづらいです。私は了承しました。
新聞を読み終えたアウロラ様には少し呆れた顔をされましたが、自分の蒔いた種です。きちんと始末はします。新聞の方も今回のものは問題なさそうですね。