緑の上級生
「午後は音楽祭の練習だったわよね?」
「そうですね、パート練習をした後に合奏ないし、合唱練習をするそうです」
「私とカミラは器楽だから早めに準備をしに行くわ」
「私たちは少し庭園を回ってから向かいますわ。リリーが先ほどから見ていますもの」
そう私が言うとリリーは目を輝かせました。
私もここへ来ることは初めてのことですし、物語の登場場所を見てみたい気持ちはよくわかります。庭園は、魔法師達が国王へ忠誠を誓い、国の発展を約束した伝説がある場所です。そこには無数の魔法陣が刻まれているそうで、どのようなものがあるのか気になります。
「きれいな花がたくさんあるわね」
「ええ、観賞用としても薬草としても役立つだなんて素晴らしい庭園ですわ」
「もう、アレックスったら。でも、こんなに美しいのに薬になるの?」
「ええ、解毒薬や鎮静剤が作れそうですわ。それに、強力な魔法の傷を治療するためのものも作れるでしょう」
「本当に博学ね。私も薬草学の勉強をしようかしら。あら、そろそろ練習部屋へ向かわないとだわ」
練習部屋は先ほど文化祭の準備をしていたお部屋の向かい側ですが、なにやら人だかりができているようです。
「何かありまして?」
「アレクサンドラ様、それが、」
「君が研究の代表者か?」
「発案者は私ですが、何かございましたか?」
「ほう、」
この方は青の3年生でしょうか。年上の方です。
何故かわかりませんが、見下されていることだけはよくわかります。学年で言いますと丁度中間学年になります。
「君が我々の研究を盗んだ張本人か」
「研究を盗んだ、ですか?」
「机に置かれているあれのことだよ」
「?昨年出されたレジュメをもとに再現したものですが?先生に確認したところ特に特許申請は出されていないと伺いましたわ」
「レジュメを参考にだと?できるはずがないだろう?それに横に置かれているものも我々が研究していてだね、困るよ?アイデアの盗むだなんて」
「盗むも何も、私たちが制作しているものは音楽を流す機器ですが、そちらは何を研究していますの?」
「わ、我々は、だね、いや、下級生の君に言う筋合いはないだろう?」
「倒錯を疑っているのであれば言う必要はおありになると存じますが、まさか、こちらにあらぬ疑いをかけて逆にアイデアを得ようという考えなのでしょうか?」
「そ、そんなことは、」
「ですわよね?まさか。誇り高き上級生がそのようなことをなさるはずありませんもの。それに、デザインも回路も魔方陣もすべて違うものを使用していますので、」
「いったい何の騒ぎだ!?」
「ジェイコブ様、これは、」
「また貴様か、」
問題が解決しそうでしたのに、タイミングのお悪いこと。
「そういえば、どうして私たちの研究物をご存知でしたの?たしか、お部屋の扉は閉まり、カギはかかっていたはずなのですが、」
「あ、いや、それは、」
「上級生に対して言いがかりをつけるとは、」
「中でなにをなさっていたのかお聞きしてもよろしいでしょうか?先輩」
「い、いや、その、」
「あら、私としたことが、作業の記録用に使用していた魔術具を切るのを忘れていたようですわ」
顔を青くして先輩は帰ってしまいました。あら、あの方、ローブは青ですのに足元は緑色でしたか。
「お騒がせしましたわ」
「いえ、上級生相手に1人で対応させてしまい、」
「気になさらないでください、責任者として名を連ねているものの役割ですわ」
さて、私達も次の準備をしなくては。
「貴様、騒ぎを起こしておいてなんだ、あの態度は」
「第2王子殿下、もう解決したことでございますが、これ以上騒ぎ立てるのはあの方にとってもよろしくないことだと思いますわ」
「私に意見を申しておるのか?」
「意見さえ、私は申し上げてはいけないのでしょうか?」
落ち着きなさい、アレクサンドラ、どうにか心を落ち着けるのよ。
「そろそろ、クラス活動の時間だが、どうした?」
「兄上、聞いてください」
「第1皇子殿下にご挨拶申し上げますわ」
「ああ、アレクサンドラ嬢、何があった?」
「それが、」
「この者が騒ぎを起こし、さらには上級生に対して偉そうな態度を取り、私に対して不敬を働いたのです」
「それは本当か?」
「第2王子殿下から見られた状況はそうであったのでしょうね」
「では、君からの視点を聞いてもいいか?」
「そろそろクラス活動の時間なのですが、」
「それもそうだな。話は後ほど聞くとしよう。担任とともに来ると良い」
「配慮していただきありがとうございます」
その後、第1王子殿下の号令により、各々がクラス活動の場所へ向かわれました。
クラスの皆様には先ほどのことをある程度の説明を行い、一部始終を見ていた方には証言をしていただき、そのことを文にしたため用意を致します。
すべての用意を終え、練習を始めたものの、皆先ほどのことが気になってしまい、上手く集中ができなかったようです。