影響力
合同実習の2日目、昨日よりもピリピリとした空気を感じます。結果が振るわなかった班が多いからでしょうか。まあ、むぼ、いえ、大変真っすぐすぎる作戦を立てられている班や、逆に慎重になり過ぎるあまりどうも各員の役割が上手く機能していない班など様々でした。
過信が過ぎるのも逆に慎重が過ぎて臆病になるのもよろしくないということです。何事もやはりバランスが大切なのでしょう。慎重と臆病、勇敢と無謀は似て非なるものです。
「アレックス、おはようございます」
「カミラ、おはようございます。あら、今日は髪をまとめられているのですね」
「ええ、魔術も剣術も学びますから邪魔になってはいけないと思いまして、いかがでしょうか?」
「とても似合っていると思いますわ」
「ありがとうございます、お気に入りのリボンですの」
もしかして、以前グレイがプレゼントしたというものでしょうか。いえ、それにしては色が違うような気がします。深刻そうに相談してきた割にプレゼントした後はとても自慢気に何度も同じお話をされました。そのせいでどのようなリボンなのか特徴を覚えてしまいました。
「以前、お姉様とお買い物をした際に一目ぼれをしまして購入したものなのです」
「シンプルですが上品なお色で良いですね」
「そんなにお褒めいただけるなんて、今日は良い日になりそうですわ」
「楽しそうにお話されていますね」
「アウロラ様、おはようございます」
「お、おはようございます」
「おはようございます。カミラ様のリボン、素敵ですわね」
「あ、ありがとうございます、アウロラ様の髪飾りも素敵ですわ」
褒め合いが始まりました。お2人とも髪をまとめられて気合十分といった感じです。他にもちらほら髪をまとめられている方はいらっしゃるようです。それどころか、アウロラ様が髪をまとめられているのを目にして慌てて整えに向かってらっしゃる方もいるくらいです。
影響力は凄まじいもので、ついには教室内の半数以上の女生徒が髪をまとめられています。異様な光景です。
「アレクサンドラ嬢、難しい顔をしてどうしたんだ?」
「マシュー様、おはようございます。いえ、影響力とはすごいものであると改めて認識いたしまして」
「影響力?多くの女生徒が髪をまとめているみたいだね」
「ええ、アウロラ様も目にしてすぐさまに整えられた方々です」
「な、なるほど、君は真似はしない、いや、しないか」
「慣れている姿が1番ですから。それに、どのような状況下であっても一定以上の力を発揮できないと意味がありませんから」
「なるほど。一理あるな」
昨日と違う女生徒の姿に驚きつつもときめいていらっしゃる男子生徒も何人かいるようd、ピリピリとした空気は少しだけ薄れました。
「まだ何かございますか?」
「いや、アレクサンドラ嬢もまとめたら雰囲気が変わるのではないかと思ってな」
「うなじを出すことが苦手なのです」
「それは、すまないな」
「いえ、お気になさらず。私は楽しそうな方々を見ているだけで十分楽しめますから」
髪飾りも定期的に別の種類を付けることでも楽しめます。
「そうですわね、髪をまとめ上げるのはまたいずれ、ということですわ」
「そ、そうか、楽しみにしている、でいいのかな?」
「率直なお言葉で構いませんわ」
「それじゃあ、楽しみにしているよ」
「ふふ、古代文字研究部の方々はおかしな方ばかりですね」
「否定はできないな」
「本日はそれなりに厳しくお教えしますので覚悟をお決めくださいね」
昨日、話した結果、カミラは基本的にアウロラ様がお教えし、マシュー様は私がお教えすることとなりました。アウロラ様の希望に沿う形となったわけですが、アウロラ様は相当カミラを気に入っているご様子です。
私としましても魔力量の多いマシュー様ならできるだろうという魔術をいくつか用意しました。カミラの魔力量だとギリギリ扱えるかどうかわからないもののため、それを何の改良も加えずに試せるのは良い機会だと思っています。
ついでに改良した魔力回復薬も試していただく予定です。匂いと味を改良しましたから恐らく大丈夫なはずです。
「皆様席についてください」
先生も到着し、本日の日程の説明がされます。早速班に分かれて魔術特訓を始めるそうです。屋外に結界を張り、その中で行うそうなので、本日注意すべき点は結界を破壊しないよう気を付けることだとわかりました。
諸々も注意点を確認し、移動します。