適正属性
それから数日後。今度は私のもとに月のものが来てしまいました。普段通り過ごしているつもりでしたが、いささか不機嫌に見えるようです。困りました。せめてもの救いはアウロラ様が察してくださっていることでしょう。
「アレックス、助けてくれ!」
「...。何ですか?グレイ」
「そ、そう、不機嫌にならなくても、」
「機嫌が悪いわけではありませんが、どうしました?」
少々言葉を発することが面倒になってはいますが、機嫌が悪いわけではないのです。
「これを見てくれ!」
「これは?合同実習の予定表ですよね?何かありまして?」
「カミラと実習が分かれてしまったのだ」
「適正属性が異なっているので仕方のないことではありませんか。カミラは確か、土属性と最近風属性も適正に加わったと言っていましたね」
「そこなんだ!俺も属性を増やせばカミラとともに実習を受けられるだろう?」
合同実習は学年を問わずに適正属性によって分かれ行われます。基本属性の火・水・風・土の4つに基本的には分かれるのですが、適性を複数持つ方はひとまとめにされます。クラブ内でもジャクソン様とグレイ以外は複数の適正属性をお持ちのようです。
適正属性は複数持つことは大変便利ではありますが、使いこなせないと意味がないので強さに影響するかと言われますと正直微妙なところです。1つ言えるのは魔術もそれに関する技術や知識を多く習得しないと使い物になりません。
「つまり、カミラと実習を受けるために属性を増やしたいということですか?」
「その通りだ、属性はどのようにしたら増やせるんだ?」
ジャクソン様も希望に満ち溢れた視線を私に向けていますが、そう簡単ではありません。増やし方は私も知りたいところではあります。
「マシュー様は何か特別なことはされていましたか?」
「僕?そうだな。多くの文献を読むようになったくらいだよ。後は、そうだ、祝福を受けた時に増えた、かな」
「何故祝福を受けたのに俺は増えていないんだ...。」
あ、お2人が落ち込んでしまいました。しかし、これに関しては不明瞭なことが多いのもまた事実。
「アレクサンドラ嬢はどうだったんだい?」
「私、ですか?確か、最初に扱えたのは土属性だったように思えます」
「意外だな、火ではなかったのか?攻撃好きだろ?」
「グレイの中で私はどのような人間なのですか?火属性は3番目ですわ。元々の適性は土です」
初めて魔術を使ったのは確か、森で遊んでいた時に人攫いにかどわかされそうになった時でしたわね。ぬかるみにその方達は嵌め、逃げたのを覚えています。
「意外だな、攻撃はしなかったのか」
「幼い時でしてよ。お兄様が代わりに報復なさったとお聞きしましたわ。そして、風属性が扱えるようになり、火属性、水属性の順番ですね」
「その時に変わったことは、」
「特には、そういえば、使えるようになる直前に魔術書が読めるようになりましたわ。属性についての理解力が上がったからでしょうか?」
「一理ありますわ。私も水属性が扱えるようになる前に、水の祝福という曲の練習をしてきちんと弾けるようになってから扱えるようになりましたもの」
属性に対する理解度や向き合い方によって増える可能性がありそうです。大抵の方は最初の属性に磨きをかけることに集中するためにあまり複数の属性の適性が現れないということでしょうか。得意に磨きをかけるか、幅広く手を広げるか、の問題ですわね。
「今回は属性を増やすことを諦めた方が良いのではありませんか?」
「な、何故だ?方法があるのならば、」
「複数適性の実習は昨年と同様ならばダンジョンや魔獣の森に行く予定となるでしょう。習得する時間と慣らす期間を考えても時間が足りません。実習で何も得られない結果となるかもしれません」
「慣らす期間?」
「ええ、いきなり新たな属性の魔法や魔術を使うのです。体には負担がかかることでしょう」
「ちなみにアレックスはどうやって慣らしたんだ?」
「連日の素材収集で慣らしました。褒められた方法ではありませんが。マシュー様は基礎魔術を使いながら慣らしている途中です」
「結構疲れるものだな」
「複数属性を扱うということは、様々な楽器を扱うことと同義と捉えてください。木管楽器、金管楽器、打楽器、弦楽器をそれぞれ扱うことと同じなのです」
「その例えは黄色クラスでしかわからない説明だろ」
「実習中に求められるのは臨機応変さと反応速度になります」
「つまり、慣れていないのに臨むと怪我をしかねないということか」
「その通りです、属性を増やすことを目標にするのは良いですが、焦りは禁物です」
私がそう言うと渋々ながらも納得してくださりました。説明も終え、席に着きます、少しだけ血の巡りを感じました。それとともに頭がふわっとします。ここはお茶を飲んで落ち着きましょう。
「入れ直しておいたよ」
「ありがとうございます」
気遣いに感謝しつつお茶を飲むと少しだけふわっとした感覚が収まったような気がしました。マシュー様の習得状況を見つつ、実習までにできることについてお話をしました。