繋がり
まとめ作業はある程度終わりましたわね。さて、グレイの方はどうなったでしょう。あら、
「筆が進んでいないようですね」
「こっぱずかしいのを少しは分かれ」
「それを貴方は贈っているのですよ」
「アレクサンドラ嬢、でもどうして恋歌なんだい?グレイとノア様が担当になったのは、」
「冬の東屋でしたわよね?」
「ああ、魔法陣は季節の色で修復したのだが、どうもはじかれているようでな」
「はじかれる、ですか?」
マシュー様はよくわからず首をひねっています。アウロラ様もわからないご様子です。書き終わるにはまだ時間が必要ですからこの際解説しても良いでしょう。
「冬の東屋のお話はご存知ですか?」
「確か、冬の寒さを耐え忍ぶため儀式用として作られたとアレクサンドラ嬢が言っていた」
「そうですの?私は悲しい恋物語の印象が強いですわ」
「どちらも当たっていますわ。マシュー様はさすがですわ、少し説明しただけで覚えていらっしゃるだなんて」
「それほどでも。でも、どちらも当たっているって?」
「そのままの意味です。儀式としての仕様と恋物語の2つの側面を持っているために、この2つを解決しなければなりません」
「それで、恋歌なのですか?」
「ええ、そうです、アウロラ様はどのような結末だったかをご存知ですよね?」
「とても悲しいお話でしたわ。想い合っていたのに結局最後は会うことができず、すれ違ったまま、女性の方もすぐに亡くなってしまわれたのは」
お話を思い出し涙を浮かべていらっしゃります。互いをつないでいたものが突然断ち切られ、2度と会うことができなくなった彼らを思っているのでしょう。お母様はあの物語には教訓が詰まっていると仰っていました。
きっと、繋がりとは固く強く見えても少しのことで脆く簡単に崩れ去り消えてしまう儚さのここを仰っていたのでしょう。繋がりを維持するためにはそれと相手を信じ続ける忍耐力が要求されます。それを保ち続けるのは何とも大変なことです。
「アレクサンドラ嬢?」
「いえ、お母様が以前教えてくださったことを思い出してしまいました」
「それはそんなにも悲しいことだったのかい?」
「いえ、ただ、そうですわね。儚いものではありました」
こうして多くの方と繋がりを持てているわけですが、私はそれを維持するだけの力を持っているのでしょうか?繋がりというものは広がれば広がるほど以前のものが維持できなくなりそうで時折怖くなります。私は大切なお友達との繋がりだけは失いたくないのです。
「恋歌を捧げるというのはその人たちにとっての救済なのかもしれないね」
「救済ですか?」
「うん、すれ違ってしまった人たちはもう一度再会できるように、って、こういうことはアレクサンドラ嬢の方が詳しいのに、僕が説明するのは根拠がないものだけどね」
「いえ、それで彼らが救われるのであれば、素敵な考えだと思いますわ。私には思いつきもしませんでしたから」
「じゃあ、アレックスはどう思ってこの仕掛けが作られたと思っていたんだ?」
「ただの気まぐれ、ですかね。製作者の悪戯心かと思っていましたわ」
「うわ、悪辣だな。一応書けたが、どうだ?」
「...。文字が多少間違っていますが、いいでしょう」
「良かった、ジャックと頭をひねったからな」
頭をひねって普段あれをカミラに贈っているということでしょうか?難解で読み解くのが難しいとお聞きしたのですが。
「なんだ?」
「いえ、準備ができたのならば向かいましょうか」
諸々の必要なものを持ち、再び外へ出ます。もう少し夕焼けがさしてきそうです。