待ち時間
しばらくして、グレイ、ノア様ペア、ジャクソン様、アウロラ様ペアの順で戻って来られました。ジャクソン様が解読に相当苦労されたようで疲れた表情をされています。
席に着かれたのを確認してマシュー様がお茶を、私がお菓子を用意しました。出したところでテーブルの上に魔力回復薬の改善案についてのメモを片すことを忘れていたことを思い出しました。あ、遅かったようです。
「随分と待たせてしまったようだな。マシューとアレクサンドラ嬢はどのくらいに戻ってきていたのだ?」
「それほど待ち時間をいただいたわけではございませんわよ。マシュー様、そうですわよね?」
「ああ、そうだね。話をするのに夢中で時間を忘れていましたからそうお気になさらないでください」
「お2人はどのようなお話をされていたのですか?」
アウロラ様は楽しそうな表情をされています。ジャクソン様はどうしてそのように浮かないというか疲れた表情をされているのでしょうか?あ、アウロラ様に良いところをお見せすることができなかったのでしょうね。
古代文字に関しましてはアウロラ様の方がお得意でしょうし、納得です。
「アレクサンドラ嬢、何故可哀そうなものを見る目で見ているんだ?」
「気のせいですわ。マシュー様とは様々なお話をしましたわ」
「東屋に関する話はとても興味深いものであったな」
「待て、マシューはアレックスの長ったらしい話を聞くことができたのか?」
「長いとは感じませんでしたが...。」
「すごい精神力だな。感心した」
「グレイ、それは私に失礼というものですよ?理解できていますか?」
「事実だろ」
「では、今度から貴方に説明する際には手短に済ませることに致しますわ。専門用語や古代語が多くなると思いますがご容赦くださいませ」
「それはただの嫌がらせだろ!?」
「まさか、ご要望にお応えするためでしてよ?」
「ぐぬぬ、ノアはどう思う?」
「かみ砕きつつ説明してくれるからわかりやすいと思うが、補足が多くなってしまうのは仕方がないというか、というか、補足なしに聞くのは相当理解するのが難しくなると思うぞ?」
「確かに、的確な補足をされますわよね。どうしてそのような事ができるのですか?」
「弟にお勉強を教える際の癖でしょうか。より理解が進むように配慮した結果ですわ。弟も好奇心が旺盛で多くのことを質問するのです。姉としてその疑問にお答えするために日々知識を蓄えることは当然のことですわ」
「素晴らしいお心がけですわね」
「コリン家の優秀さはこういうところからきているのだろうな」
雑談をしている間にジャクソン様は多少なりとも元気を取り戻されたようです。そこから本日の報告に移ります。ますは私達からのようです。
「無事起動することができましたわ」
「天井の夜空と月が動いていてすごいと思いました。暦のためのものと話を聞いて実感したというか、」
「そちらは上手くいったようだな」
「あら、皆様は違いましたの?」
「上手くはいったが、これを見てほしい。気になる記述があってな」
そう言われ、ノア様に差し出されたものに目を通します。
なんてことのない文章ですが、これは、人によっては頭を悩ませる事態になってしまわれることでしょう。
「グレイ、出番ですわ」
「な、なんだ?」
「恋歌をこちらの東屋の近くの祠へ奉納してきてください」
「は、はあ?な、なんで、そんな急に、いや、アレックスがやれよ」
「担当は貴方方でしょう。カミラに恋文とともに恋歌を贈っていることは知っていますわよ」
「な、」
「とても情熱的な歌を詠まれるのですよね?適任としか言いようがありませんわ」
「いや、だからなんで、」
「お話が長くなりますので。ジャクソン様とアウロラ様は確か春の東屋でしたよね?」
「ええ、そうなのですが、何か間違いがあったのか、起動しませんでしたわ」
写しを確認すると、魔方陣に問題はなさそうです。あと考えられることといえば、魔力が足りていないことですが、魔石には十分に魔力が込められていたはずです。
「記述は色を守られましたか?」
「色、ですか?」
「はい春は青、夏は赤、秋は白、冬は黒と言われていたのですが、」
「春のイメージの桃色で書いたと思いますわ」
「それが原因だと思いますわ。後ほど確認に参りましょう」
「お手数をおかけしますわ」
「いえ、アウロラ様にはいつも助けていただいておりますから」
春の東屋には実はまだ行ったことがありませんし良い機会でしょう。東屋の中では人気の高い場所なのですよね。グレイの恋歌が終わるまで待ち、ついでの祠での奉納を済ませることにします。
その間に報告書もまとめていただいています。
似た事例の者は改めてまとめておいた方が良いのでしょうか?そんな考えをマシュー様と話しながら待ちます。