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星の館にもいくつかの伝説が残されており、多くの女学学生はそのお話に胸をときめかせて星見会の期間を過ごされるようです。
「あちらは、舞台のモチーフとなったバルコニー、そらから、出会いに噴水に、あら、庭園も素敵な場所よね」
「いつになく情熱的ですわね、リリー」
「そう言うカミラも少し浮足立っているように見受けられますわよ」
「そ、そんなことは、なくてよ?」
「そういうアレックスはいつも通りね?」
「私もいささか心が躍っていますわよ?それに、ここは自然が多くて心地が良いですもの」
「森に囲まれているけど、魔獣とか大丈夫かしら?」
「敷地内を結界で覆ってるそうですし、何かありましたら騎士団の方々が守ってくださるみたいでしてよ?きっと、大丈夫です」
アメリアの不安も少しだけわかるような気がいたします。もしも何かありましたら、私が3人をお守りしなければなりませんね。そのためにいくつかの御守りを持参したのですから。
「お、アレックスじゃないか」
「お兄様?もしかして、警備にあたる騎士団とはお兄様の部隊だったのですか?」
「そうだ、今年は体調は崩さなかったみたいだな」
「ええ、平気です」
「御守りも遠征の時に役に立った。ありがとうな」
「いえ、それでしたら良かったですわ。そうだわ、お兄様、こちらを」
「...結界は張ってあるが、いや、お前がそう言うなら警戒しておくべきなのだろうな」
「ええ。何かありましたら私も、」
「お前は学生だ、星見会を楽しむことだけ考えろ」
「しかし、」
「学友ができたのだろう?彼女たちと楽しまなくてどうするんだ?幸い、俺の部隊は精鋭の集まりだ」
「そうでしたわね。私はお兄様達のことを信頼していますもの。こちらの御守りは騎士団の方たちにもお渡し願えますか?」
「わかった、俺の部隊の分だな。渡しておくよ」
そう仰るとお兄様は持ち場へ戻られました、何事もないことを願うほかありませんね。
「アレックス、もしかしてあの方がお兄様?」
「そうですわ、騎士団に所属していますの」
「カッコいいわね。知ってる?アレックスのお兄様の騎士団は平民の方達の間でも人気で写し絵のモデルになることもあるそうよ。特に団長様」
「お兄様がですか?後ほど機会がありましたら伝えておきますわね」
まさか、そんなに人気だとは思いませんでしたわ。
「あら、かなりの人気でしょう?たしか、年頃のお嬢様方の初恋をすべて奪われたお話は有名ですもの」
「そんなことが、お兄様はお凄いのですね」
母はよく早く婚約者を連れてくるよう仰っていますが、このことは言わないでおきましょう。未だにいらっしゃらないことが知られてましたら大変なことになります。
「さあ、お部屋に荷物を置いたらすぐに交流パーティーの準備をしなければなりませんわよ」
「今日はアレックスがくださったお揃いの髪飾りがあるもの。早く付けたいわ」
「ええ、そうね。行きましょう」
そう言いつつ、なかなか動こうとなさらないリリーの手を引いて館の中へ入ります。お部屋へ向かう道中、様々な生徒からの視線を感じましたが、優雅に見えるように堂々と歩きます。
多くの方がいる中で失態は許されません、
「淑女らしくあるのよ、アレクサンドラ」
そう決意をして私は交流パーティーの準備に取り掛かりました。