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月の東屋

 長い長い議論を交わすこと、はなく、案外あっさりとペアは決定しました。理由はグレイが私と組むことを断固として拒否したからです。

 本来であれば上級生であり、成績優秀者であるノア様と3年生であり、古代文字を最近読みこなせるようになってきたマシュー様はを上級生下級生ペアとして組ませたかったのですが、グレイの本当に切実な願いにより、マシュー様は私と、ノア様はグレイとペアを組むこととなりました。


「そのように拒否される理由が思い当たらないのですが」

「アレックス、お前それは本気で言っているのか?」

「何ですか?全く心当たりがありませんわ」

「まあ、マシューが一緒なら暴走はしないと思うが、」

「ぼ、暴走するのですか?」

「しませんわ」

「気を付けろ。こいつが語り出すと長いからな」

「は、はあ...」

「待て、解説や考察なら俺が聞きたいのだが、」

「ノアとアレックスが組んだら作業に支障が出るだろ。古代文字ができて魔方陣を構築できる者は分散させた方が良いと話していただろ」


 ノア様とグレイが騒がしくお話されています。そろそろ向かった方が良さそうですね。


「マシュー様、参りますか」

「放っておいていいのかい?」

「ええ、問題ありませんわ。こちらに飛び火する前に向かった方が賢明ですわ」

「わかった」


 マシュー様は以前グレイに対するイメージが崩れ去ったと仰っていましたが大丈夫でしょうか。一般生徒がグレイに抱かれている幻想の姿とは異なった姿を見続けているわけですが。


「アレクサンドラ嬢、どうかしたかい?」

「いえ、私達が今日担当するのはこちらのようですわね」

「ここは、人が集まるところだけど普通の東屋ではないのかい?」

「ここも要所の1つですわ。通称、月の東屋」

「月の東屋?」

「恐らく中を見た方が早いと思います」


 こちらが月と銘打たれている理由はその内装にあります。


「なるほど、天井に夜空が描かれているのだな」

「やはり、動いてはいないようですわね」

「それはどういう、」


 こちらの特徴としましては季節ごと、いえ、日ごとに異なる天井でしょう。その昔、暦を作る際に重宝されたそうです。現在とは異なる暦にはなりますが、現在でも使われている地域はございます。


「ありましたわ。マシュー様、欠けている部分を確認できますか?」

「ああ、これはどう修復するんだ?見たことのない模様だが、」

「いえ、現在でも十分に通用する模様ですわ。ここを、こうしますと、」

「...。月の形か?」

「ええ、それからここに文字を書き足し魔石を嵌めると、」

「魔法陣が。光った?」

「中の天井を見てみましょう」


 天井の夜空にはお月様が浮かんでいました。今日は昔の暦にして8日、上限の半月が浮かんでいます。夜空も雲に動きが出ています。修復できたと考えてよいでしょう。


「先ほどまではなかった月が浮かんできた。これはいったい、」

「魔力の満ちた魔石を嵌めましたし、あと50年は止まることはないでしょう」

「そう、なのか。それにしても、どこでそのような記述を、」

「こちらの石碑です」

「石碑?そのようなものがあったんだね」


 古代文字で記された石碑はかすれつつもその文字を確認することはできます。説明文が遺されているものは大抵古代文字で記されていて現代では目立つことはあまりありません。マシュー様はゆっくりとその文字を読み終えたようでした。


「すごい技術なんだね」

「ええ、私はこの技術や知識を身に着けたいと思っていますの」

「それはいったい何のために?」

「それは、わかりません。意味などないかもしれませんし、しいて言うならば知的好奇心を満たしたい、でしょうか」

「なるほど」

「引かないのですか?」

「僕もすべてのことに意味があるかはわからないからね。意味を見つけるためには何かを身に着けてからというのも決して遅くはないと思うよ」

「この世の全てには意味がありそして無意味である、ということでしょうか」

「それも一理あるね。意味を求めずに行動するのも面白いさ。それこそ、クラブを立ち上げる時に君が先生に言ったことにも通じているのだろうね」


 マシュー様は思っていたよりも固いお方ではないのかもしれません。ある程度の遊び心をお持ちのようです。


「ふふ、マシュー様は意外と魔術を開発することに向いているかもしれませんわね」

「それは、どうかな。魔術の授業はあまり得意じゃないんだ」

「成績を察するに基礎がきちんとできているようなので問題ありませんわ。今度議論を交わしてみませんか?」


 きっと私やノア様にはない面白い意見をお持ちのはずです。これを逃してはなりません。少々困惑しつつも承諾していただけました。

 部室へ戻る途中で月の東屋についていくつかの質問がされ、私がお答えすると楽しそうにお話を聞いてくださります。自分から質問しておいてげんなりする誰かさんとは大違いのようです。

 部室へ到着後も他のペアが戻るまでそのお話は続き、後日改めて様子を確認するという予定もたて、報告書を作成いたしました。

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