白狐
浄化作業は無事、滞りなく終えました。このダ行が行われている間、貴婦人はお茶会を楽しみ、殿方は政治や狩りの話をして盛り上がっていたそうです。
誰一人作業に気が付くことはなく、また、王宮の異変にも気が付いていなかったと後ほど騎士団から報告を受けました。私もできるだけ気づかれないように丁寧に収納を行った甲斐があるというものです。
無事、異空間から外に戻すことも終え、外の方に掛けていた幻術も解いてもらいます。さすがにオスクリタも少し疲れたようです。労わるためにお茶を用意すると喜んで口に運んでくださりました。
「アレクサンドラ嬢は大丈夫か?1番魔力消費が激しかった上に、調整も難しいものだっただろう?」
「アレクサンドラ様、ゆっくり休まれてください」
「マシュー様、アウロラ様ありがとうございます。魔石の補助がありましたからさして消費が激しいわけではございませんわ。お2人もお疲れでしょう?こちらでお茶を飲んで休まれてください」
「1番大変な役割でしたのに、私達を気遣ってくださるなんて...。」
アウロラ様は感動されていますが事実を述べたまでです。今回のためにいくつかストックしていた魔石を持ってきて良かったです。魔石を使用していなかったら恐らく立ちくらみを起こしていたことでしょう。
「アレクサンドラ嬢、用意は良いか?」
「ジャクソン様、少しはアレクサンドラ様に休憩時間を設けてくださいませ」
「だ、だが、早急に片づけないと時間が、」
「香の効果はまだ現れていないと思います。もう少し時間を置いた方が良いでしょう」
「マシュー様もこう仰っていますわ。ジャクソン様は焦り過ぎです。さあ、アレクサンドラ様、こちらへどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
私もジャクソン様同様にすぐに向かおうと思っていたのですが、性急すぎたようです。ひとまず、心を落ち着かせましょう。尋問の場では特に冷静ていなければなりませんから。
「そう言えば、アレックス、名乗りはどうするつもりじゃ?」
「名乗り、ですか?」
呆れたようにオスクリタが説明してくださります。
尋問する際に偽名で良いから名前を付けておくことで共に空間にいる仲間と連携がとりやすくなるとのこと。特に今回は変装までしているために必要になるとのことでした。
「全く考えていませんでしたわ」
「そうだと思った。お主は魔術のこと以外に関しては途端に興味が薄れるからのう」
「そ、そんなことはありませんわ。しかし、名前ですか」
わかりやすくかつ、覚えやすい物。
「...。狐、とかでしょうか?」
「それは、安直すぎないか?」
「では、どうすれば良いのでしょう」
「白狐ではどうだ?白い狐だし」
「ノア様の案を採用いたしますわ」
「アレックス、お前考えるのが面倒になったな?」
「そんなことありませんわ。そこまで言うのならばグレイは良い案があるようですわね?」
「い、いいんじゃないか、白狐で」
どうやら良い案は持ち合わせていないようです。さて、そろそろ行かなければならないようですわね。ジャクソン様先導の元、尋問が行われる部屋へと向かいます。尋問部屋へと向かうのは私とジャクソン様のみです。
護符を持ったか確認して部屋の前までつきました。心配してくださったアウロラ様やマシュー様には申し訳ありませんが、お気持ちだけ頂戴して待機をお願いいたしました。ノア様も行きたそうでしたが、ジャクソン様が止められていました。
ノア様やグレイはともかく、アウロラ様やマシュー様のお心に暗い影を落としてはならないという謎の使命感にかられた私はジャクソン様とどうにか説得に成功したのです。どなたか褒めてくださらないかしら?
「アレク、いや、白狐、覚悟は良いか?」
「ええ、いや、もちろんだ」
白狐として完璧に擬態するためにいつものような口調は一時的に封印します。まあ、昔のような言葉遣いに戻すだけですのでそこまで苦労はありませんが。お兄様も騎士としてこの場におられます。
最初は心配そうなお顔をされていましたが、私の返事を聞いて安心されたようです。今は真剣な顔をして後ろの方に控えています。
「それではお開け致します」
扉が開かれました。香の香りがします。
中の方々は全員椅子に座られています、ジャクソン様の姿が見えたとたん、会話をやめ、注目が集まりました。その表情から見受けられる感情は、焦り、期待、それから怒りと様々です。
「本日はこの場に集まってくれて感謝する」
ジャクソン様のそのお言葉が尋問開始の合図でした。