決行の日
決行の日はいつもよりも穏やかでとても天気の良い日でした。王宮からの招待状により多くの人々が入宮していく様子が見て取れます。
「この魔術具、便利だな」
「範囲指定がされ、現在の様子しか見ることができませんが、これは今後の課題ですね」
「お前たちは何でそんなに冷静なんだ?」
「グレイは何故そのように落ち着きがないのですか?」
「これからすることを考えるとグレイの方が正常なのではないか?アレクサンドラ嬢もノア殿も肝が据わっているな」
「お褒めいただき光栄ですわ、ノア様。振り分けの方はいかがですか?」
「順調に進んでいる。そろそろ、招待した者全員が集まるはずだ。わかっているとは思うが気は抜かないようにしてくれ」
「ふむ、こちらの第1王子もだいぶ成長したようだな」
どうやら、魔王様も到着されたようです。
「魔王殿、今回は協力していただけるということで、」
「なに、アレックスの頼みじゃからな」
「とても心強いですわ」
「そうじゃろ?もっと頼ってくれても、」
「それでは後ほどお願いいたしますわ」
まるで子犬のようで愛らしいです。オスクリタも最近は忙しくしていたはずですのにこうして協力してくださるなんて。...。何か喜んでくださるお礼を考えましょう。
「アレクサンドラ嬢、香の設置が終わったのだが」
「マシュー様、ありがとうございます。何か不都合はありませんでしたか?」
「いや、それにしてもこの護符はすごいな、まるで誰も気づいていないようだった」
「ほお、面白い護符じゃな。アレックスの手製か?」
「ええ、良くお分かりですね。必要とあらば後ほどお教えいたしますわ」
「な、なあ、アレクサンドラ嬢、そちらの方は、」
「あ、マシュー様にはご紹介がまだでしたね。こちら、魔王様です」
「ま、魔王!?」
「いかにも、我が魔王じゃ。よろしくのう」
「お、お初にお目にかかります。マシュー・カーターと申します」
「ふむ、カーター、か。もしかして、香水の調香を行っておるカーターか?」
「は、はい」
「以前、この国の王からの贈り物に入っておったものはとても気に入った。機会があればまた頼めるか?」
「ち、父上にお伝えしておきます」
なんだか、ここまで緊張されているマシュー様が少し可哀そうに見えてきました。
「マシュー様、そんなに緊張なさらないでください。魔王様も威圧感が出てきていますわよ」
「す、すまない。威厳を意識するとつい、」
「もう、威厳は常におありではありませんか。あちらの方で最終確認を行ってもよろしいですか?」
「わ、わかった」
私が間に入ったことでマシュー様は胸を撫でおろされました。相当緊張されていたようです。それと同時に私が魔王を窘めた様子に驚かれたようでした。
「それで、敷地を覆うような形で幻を周囲に見せてほしいのですが、可能ですよね?」
「もちろんじゃ。それにしても突飛なことを考えたのう」
「素早く解決できる方法ですわ。聞き出した情報はもちろん共有します」
「それは楽しみにしておる。ふむ、じゃから今日の服装はいつもと違うのだな?」
「アウロラ様が用意してくださりましたわ。東の方の服装で、お面をつけることで誰かわからなくなるそうです」
一説によると、神々が参加されるお祭りの時に身を守るためのものだそうです。神々と近くなると霊などとの距離も近くなると考えられているそうであちらに連れていかれないようにするためにお顔を隠すそうです。
実に面白い風習ですわね。ちなみに今は顔は隠していませんが、渡されたお面には狐のような動物の顔が描かれています、何故狐なのでしょう。
「アレクサンドラ嬢、魔王殿、招待客が全員入ったそうだ」
ジャクソン様にそう告げられ、私達は早速用意を始めました。部屋の中から私は魔法陣を起動させ、手始めに敷地全体を収納します、魔王様に合図を送ると早々に王宮内と敷地に幻術を掛けてくださりました。
あとはゆっくりと洗浄を進めていくだけです。
「皆様、それでは始めましょうか」
私がそう言うと皆、各々の役割の場所へと向かわれました。その様子を私は魔石を通して確認します。それぞれの合図をもとに作業は始められました。