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甘い匂い

 現在、学園側に申請してお借りすることができた空き教室にはいくつかの香りのサンプルと研究資料、その他諸々が置かれています。

 雨が多くなってきたため、外に出てから向かう東屋では不便とのことで申請を出したところ、許可が下りました。申請についてはジャクソン様に丸投げしていたのですが、無事使用許可が下りて良かったです。


「これではないか」

「そうですね。もっと甘ったるい感じでしたわ。完熟した果物を潰して砂糖塗れにしたような甘さが」

「アレックス、それは一般的にジャムという食べ物と呼ぶのだが」

「それくらいの知識はありましてよ。ジャムのようなおいしそうな香りではございませんでした。ただただ甘さを集約したような香りで、」

「なるほど。ではこちらが近いだろうか?」

「これは、少し爽やかですわね」

「果物の香りのするものはこれで全てだが、それでも当てはまらないとなると、」

「アレックスの嗅ぎ間違えということはないか?俺が近くに寄った時はそんな匂いしなかった気がするけどな」

「では、グレイはどう感じられましたの?」

「なーんか、花っぽい匂いだったような」


 私が感じた者とは少し違っているようです。まさか、時間によって香水を変えている?いえ、それだと様々な手間がかかるはずです。水属性の素養はないとお聞きしましたし。


「本人の体臭と混ざることで若干の変化はあると思うが、ここまで違うものとなると、」

「マシュー様、性別によって感じ方が変わる香水はあるのでしょうか?」

「ああ、一般的には女性の方が敏感であると考えられているが、どうなのだろうか?」

「マシュー様はどう感じられましたか?」

「僕は、この匂いが近いと感じたが、」

「...。でもあれほどの濃さはありませんわね。もしかして、適量よりも多めに付けられていrのでしょうか?」

「可能性は、あるな」


 少量ですととても良い香りですのにもったいないです。

 ひとまず輸入元を調べてもらいましょう。

 しかし、単体では当然ながら人を虜にするものは含まれていないわけで。少しだけ手を加えられていると考えてよさそうですね。恋の秘術以外で人の心を動かす物...。。


「ううん、カミラには少し甘すぎるか?」

「アウロラはもう少し落ち着いた香りの方が、いや、しかし、」


 あちらはあちらでそれぞれの婚約者に贈る品を吟味されているようです。休憩も良いですが、そこそこにしておかないと後ほど苦しくなられるのはご自身です。私から言うことはございませんが。

 そういえば、以前お兄様が女性岸からの差し入れをいただいて大変な目に合っていましたね。お酒はあまり得意でないお兄様ですが甘いものは召し上がられますので。いただいたチョコレートの中に度数の高いお酒が入っているとは思いませんでしたわ。

 あの時は確か、スキンシップがいつもよりも激しくなられ、少々うっとうしくなりましたので酔いがさめるまで眠っていただき拘束させていただきましたね。テオが食べられなかったのは幸いでしたが、私や両親は1つずついただいてしまいました。

 本当にテオが食べる寸前で止められて良かったです。


「アレクサンドラ嬢、少しいいか?」

「ノア様いかがなされましたか?」

「これを見てい欲しい。人の精神に作用するものらしいのだが、」

「身近にあるものにも色々とありますのね。チョコレートもそうなのですか」

「ああ、含まれている成分がな」


 そういえば、侍らせて女生徒たちもまるで恋に落ちたような表情をされていましたね。これらの食べ物を大量に摂取していたのでしょうか?いえ、違います。


「マシュー様、香水の中に媚薬成分が含まれているものはございますか?」

「媚薬か...いくつかあるな」

「あ、アレックス急に何を言い出すんだ!?」

「そ、そうだぞ、び、媚薬だなんて、が、学園内では慎むように、」

「このリストに載っているものがそうだな」

「ま、マシューもアレックスに手を出すのは、」

「グレイ、騒がしいですよ、こちらは真剣なのです」

「真剣だと!?リックが聞いたらどうなることか...」


 リストを上から見て行くと商品名から甘そうだと思えるようなものがいくつかあります。


「これらは女性の気分を高揚させる成分が入っているらしい。人にもよるだろうが」

「なるほど。わかりましたわ」

「何がだ!?」


 恐らくこれと恋の秘術を組み合わせたのでしょう。輸入元を確認すると古代文字が残っている地域の方です。ここで間違いなさそうです。

 あとはこれを完成させるだけ。


「マシュー様、サンプルをお借りすることができますでしょうか?」

「ああ、父上もできる限りの協力は惜しまないと言っていたから可能だろう」

「それではお願いいたします。成分が分かった以上、下位助役を作ることは可能となるでしょうね」

「アレクサンドラ嬢はすごいな」

「マシュー様こそ、あれだけ膨大な在庫の中を覚えていらっしゃるなんてすごいことだと思いますわ」

「そうかな?あ、そうだ。一昨日話していた香水についてなんだけど」

「良い物が見つかりましたか?」

「いや、良かったら僕に調香させてもらえないかな?」

「良いのですか?」

「ああ。君のように甘すぎる匂いが苦手な人のために新商品を考えていて」

「私はその感想を差し上げればよいのですね。もちろんですわ」

「良かった、それじゃあ、詳細は後日に詰めていこう」


 また一歩前進することができました。後ろの方でグレイとジャクソン様はまだ騒がれていますが放置しておきましょう。彼らが時間のロスに気が付くのはもう少し後になりそうですね。

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