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香水のような人

 カーター家は代々調香を生業としている家門です。王室に献上される品は代々の当主が選別し、調香を行い、どんな衣装よりも高価で貴重なものとされています。

 また、香水や香油の流通にも携わっており、輸入された製品や国内で作られた製本を問わず格付けを行いその品質の維持に貢献しているそうです。


「頼まれていたリストだが、こんなものでよいのか?」

「ありがとうございます」

「国内に輸入された香水の格付け表と成分表?」

「では、香水の香りについての解説をお願いいたします」

「あ、ああ」


 マシュー様は丁寧に教えてくださりました。兄のおられる次男で自身は家督を継ぐ立場ではないと仰っていましたが、その知識には見張るものがございます。事実、お母様がターナー夫人にお聞きした話ですと、将来的に家督を継がれるのは兄君になりますが、調香はそれぞれ良い物を用意し、王宮でお選びいただく方法を用いることになるそうです。兄弟同士でライバル意識を持ちつつも尊敬しあえる理想的な関係性を築かれているとのことです。

 また、貿易に関してはマシュー様を中心に、家の運営は兄君が、と分担して行うことで協力し合える関係を築くことに対してもとても積極的らしくお互いがお互いを支え和えれるよう態勢を整えておられるようで素晴らしいことだと感じざるを得ません。


「甘い香りが強いものはこれらだな。わかった。明日にでもサンプルを用意しよう」

「お手数をおかけしますわ」

「いや、こうして家業の話を聞いてくれて僕も嬉しく思う。周囲には良い顔をしないものも知れなりにいるからな」

「私は素晴らしい家業だと思いますわ。香水や香油は衣装やその人の良さを引き立ててくれるだけでなく、心を落ち着けたりしてくれる効果もありますもの。それらの流通や品質管理を行うだなんて素晴らしいではありませんか」

「父上にも伝えておくよ。かなり昔は香水は風呂になかなか入れないときに体臭をごまかすためにも使われているんだ」

「存じ上げておりますわ。それだけ私達の暮らしに浸透しているのですから、多くの需要がおありなのでしょうね」

「普通の女性はこのような話をすると嫌な顔をするのだが、アレクサンドラ嬢は変わっているな」

「歴史を学ぶ上では重要なことですから。しかし、そう仰られるなら他の方の前でお話されるのは控えた方が良いかもしれませんわね」


 こうしてお話をお聞きすると私もまだまだ知識が足りないことがあるととてもわからされます。香りだけでなくその歴史について学べるのも私にとっては大変喜ばしいことです。それはそうと、私も香水が1つ欲しくなってきました。


「何かおすすめのものはございますか?」

「好みにもよるのだが、甘すぎなく香りが強くないものか...。」

「それから、大人の女性に似合うようなものを」

「それも改めで明日資料を持ってこよう」

「楽しみにしていますわ。あら、グレイどうしましたの?」

「いや、実は俺もカミラに香水を贈りたくてだな、相談に乗ってくれないかと、」

「私もアウロラに何か贈りたいのだが」


 マシュー様がきらりと瞳を輝かせました。早速どのようなイメージか、希望をお聞きしています。いくつか候補はあるようです。


「アレックス、お前も力を貸してくれ」

「嫌です」

「な、何故だ、アレクサンドラ嬢」

「他の女性からのアドバイスをいただいたものを贈られると気になさる方もいらっしゃるからです。例えば、カミラやアウロラ様に、こちらはノア様に意見をいただきながらお選び致しましたわ、と言われたらどうです?」

「嬉しいが、複雑だな...。」

「特に他の男と仲睦まじく選んだと想像すると」

「そういうことです」


 私はいただいた資料に目を通しながらそう言いました。まあ、これもリリーにお借りした小説の受け売りですが。そんなに悩まれるなら共にお選びしたらよいのです。


「お前にそのような女性らしい情緒があったとは驚きだ」

「...。グレイ、後ほどお兄様に女性らしさとは何かお聞きしておきますね」

「やめてくれ、俺が悪かった」


 わかれば良いのです。


「グレイ、乙女に対してその言い方はいかがなものかと思うが」

「年下に言われると余計に辛いものだな」

「アレクサンドラ嬢も気にしなくてよいと思うぞ。本来、女性らしい、男性らしいに明確な政界も不正解もないし、何より自分らしくあることがその人の魅力を最大限発揮するものなのだから」

「その言い方では結局アレックスが女性らしくないという話に...」

「アレクサンドラ嬢は乙女だろう?」


 グレイ、今すぐにその目をやめなさい。頭上に水を降らせますわよ?


「はあ、グレイがここまで配慮の掛ける方だなんて思いませんでしたわ。カミラにも粗相をしていないか心配ですわね」

「な、」


 お隣の紳士を見習ってほしい限りです。さりげなく椅子を引いてくださったり、さりげなくお茶を足してくださったり、本当にさりげなく目線を合わせてお話をしてくださるところは個人的にとても紳士的だと思います。


「マシュー様は香水のようですね」

「それはどういう、」

「声に出ていましたか?」

「はい...。」

「さりげなく、人のことを思い行動するお優しさがその通りだと思いました。香水も形はございませんがその香りで人を優しく包んでくださりますから。えっと、何か、失言をしましたでしょうか?」

「いえ、そのように褒められたことが初めてで、心無い人は僕のことを偽善者だなんだと仰るものですから」

「そのようなことを仰るのは本当にお心を落とされた方だけですよ。多くの方はそのお優しさに気が付いていますから」


 ですから人気がおありだったのでしょうが。異性だけでなく同性にも効き目を発揮してきているものです。その毒牙にかからなくとも間接的な被害者はここにいらっしゃるのです。

 香りという知識を身に着け私も早く対処できるように動かなければなりません。

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