マシュー・カーター
現在私はとある人物を待ち伏せしています。目立たないための工夫もしていますのでバッチリです。お待ちしているのはマシュー・カーター様です。
人当たりが良く、男女ともに人気のある方だと伺っていたのですぐわかると思うのですが、リアム・パーカー様が邪魔、いえ、とても目立っているため見つけることが難しいです。
「アレクサンドラ嬢、何をしているんだ?」
「あら、ノア様ごきげんよう。人を探していますの」
「人探し、か」
落ち込んでしまわれました。ノア様の探し人はまだ見つかっていないのですよね。力になりたいところですが、ここまで見つからないとなると最悪の場合も考えなければなりません。そうこうしている内に、目的の人物が教室から出てこられました。
「マシュー・カーター様、ですね?」
「うわ、えっと、君は?」
「少しお話を伺いたいのですが、お時間をいただけないでしょうか?」
「あ、ああ、それは構わないが...。」
聞いていたように人に囲まれている様子は見受けられませんし、何だが思っていたよりも大人しい印象の方です。あ、ノア様も来られるのですね。
「いきなりお呼び立てをしてしまい、申し訳ありません。私はアレクサンドラ・コリンと申しますわ」
「君があの噂のアレクサンドラ・コリン嬢、なのか?」
「念のため、どのようなお噂かお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、ああ。ジェイコブ殿下が話していたのだが、危険な魔術を容赦なく使う凶暴性と残酷さ、堂々と不正を行う狡猾で品のない女性だと、」
「ふふ、根も葉もないことを仰るのが好きな方なのですね」
立派な名誉棄損だと思うのですが、さて、どうしましょうか。
「アレクサンドラ嬢、笑顔が怖いぞ」
「あら、申し訳ございません」
「い、いや、聞いていた印象とは違うのだな。失礼なことを言ってしまいすまない」
「お気になさらず。私もマシュー・カーター様のお聞きしていた印象とは違っていたので少し驚きましたわ」
「マシューで構わない。ちなみに、どのような印象を抱いていたのか聞いても?」
「女生徒の間では紳士的で人当たりが良く男女ともに人気が高い方だと伺っていましたわ。てっきり多くの方に囲まれているのかと思っておりました。私の方もアレクサンドラで構いませんわ」
「ありがとう。男女ともに人気がある、というのはよくわからないが、人と話をするのが好きなんだ。最近はどういうわけかその機会は減ってはいるが」
「何かきっかけでも?」
「もしかしたら僕と話すのに飽きたのかもしれない。こうして家族以外の誰かと学園で話すのも1週間ぶりだな」
寂しそうな嬉しそうな表情で話されるその姿はとても儚く今にでも散ってしまいそうな雰囲気を漂わせています。中性的な見た目がそうさせるのでしょうか?
「君が聞きたいことはそれだけかな?」
「いえ、本題は他にありますわ。リアム・パーカー様と仲がよろしいとお聞きしたのですが、」
「リアムか...そうだな。あいつとは仲が良かったよ」
「良かった?では、現在は、いえ、」
「ああ、気を使わないでくれ。気にしていないと言われれば嘘になるが、いずれこうなっていたのだろうから。僕自身、段々とリアムと距離が離れていくのを感じていたんだ」
「そのことに関してきっかけはございましたか?」
「あいつが妖しげな商人と関わるようになってからだな。危険な気がしたため、何度か止めたのだが、聞く耳を持ってはくれなくてな」
「なるほど、その商人から香水を買われていましたか?」
「あ、ああ、何でもこれを身に着けると異性にモテると言っていたが、」
「マシュー様は購入されなかったのですか?」
「不特定多数にモテたところで意味をなさないと思ったからな。その香水がどうかしたのか?」
「いえ、それ以降、リアム様に変化はございましたか?」
「女生徒を侍らせていることが多くなったことと、女生徒に良く話しかけるようになったくらい、か?ああ、あと、嫌味も言われたよ」
「嫌味、ですか」
「今のリアムの価値観はより多くの異性にモテるものの価値が高いらしいそして、女性たちにランク付けもしていて、それをやめた方がいいと言ったらな、...」
女性としては良い気分はしませんわ。勝手にランクを付けられているだなんて。
その気持ちを察せられたのかマシュー様が申し訳なさそうな表情を浮かべられました。mシュー様が悪いわけではありませんのに。
「もしかして、アレクサンドラ嬢にも何か迷惑を、?」
「ええ、口説かれるくらい、でしょうか」
あ、青ざめられました。必死に謝っています。
「お顔を上げてください」
「本当に申し訳ない。僕にできることならば何でも協力しよう」
「では、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
私がお願いをすると驚きつつも快く了承してくださりました。マシュー様にお声がけしたのはリアム・パーカー様と仲がよろしかっただけではありません。今回の件についてその知識や行動が大きな助けになると感じたからです。