北と南
屋敷に戻り、着替えてからしばらくはお部屋で過ごしておりました。
「お嬢様、オスクリタ様がお着きになられたようです」
「すぐに向かいます。オスクリタの使用するお部屋だけど、」
「お嬢様のお隣のいつも使われているお部屋をご用意いたしました。お揃いの寝着もご用意しているため、完璧です」
リールもオスクリタと会われてからこの調子です。オスクリタが訪れる日をずっとお待ちしていらっしゃりました。
玄関まで行くとお疲れの様子のオスクリタが目に入ります。王宮での接待がありましたから大変でしたでしょう。未成年であるため、お酒の席に通されることはございませんが、未成年であるがゆえに侮られないよう気を張っているのです。
「オスクリタ、お待ちしておりましたわ」
「アレックス、さっきぶりね」
「いつものお部屋を用意していますから向かいましょう。私のお部屋にお茶もご用意していますわ」
「ありがとう。荷物を置いたら行くわ」
お部屋の前まで案内をし、私はお部屋で待機です。今は魔王モードをお休みして一息つきたいのでしょう、研究についての意見交換はゆっくりした方が良いでしょうね。
「アレックス、入ってもいい?」
「ええ、どうぞ」
扉を開けると、魔界で最近売り出しているらしいお菓子を持ってきてくださりました。こちらの方でも売り出したいようで、味見をお願いされました。
見た目は普通のクッキーのようですが、真ん中が少し膨らんでいるため、何かジャムのようなものが入っているのでしょうか。
「これは、辛みがあるものなのですね」
「ええ、香辛料を練りこんであるの。どうかしら?」
「子どもや辛い物が苦手な方には少し、難しいかもしれませんわね」
「そう...。」
「辛い物がお好きな方には好まれるかもしれません。後ほど、お父様にも味見をお願いいたしましょう」
私はある程度は平気ですが、人によっては刺激が強すぎる可能性も否めません。
本日は緑色のお茶、抹茶と呼ばれるものを練りこんだパウンドケーキを用意しました。甘すぎなく、微かな苦みが後を引く美味しさです。こちらは、以前リベラ商会を通じて仕入れたものを使用しています。東の方の名産品らしく、紅茶とはまた違った風味を楽しむことができるそうです。
魔界の方にもぜひ売り出したいのですがいかがでしょう。
「美味しい、ほろ苦くて大人の味ね」
「お茶は甘めのものにしましたわ。今日はお疲れでしたわね」
「本当よ。何度も同じ話を聞いた気がするわ。それにしても、材料とかは報告していたのよね?調合の結果についての報告がなかったのだけど」
「すべて王宮を通して報告したはずなのですが、どうしたものでしょう」
王宮の方でも研究用で魔界から植物をいくつか提供していただきました。貴重な素材を使わないだなんて、私が欲しいくらいですわ。
「アレックスはどう思ったの?期限は延ばしたけれど、間に合うと思う?」
「厳しいと思いますわ。効率が悪いですし、やる気も感じられません。オスクリタはどう思われますか?」
「同感よ。魔界の方ではある程度の選抜は済んだわ」
「頼りにしていますわ。私も早く調合に移りたいです」
「それにしても、古の方法だなんて誰も思いつかなかったでしょうね。そうそう、古の魔術をまだ受け継いでる地域なのだけど、」
オスクリタは地図で示しながら説明を始めました。北と南に分かれているようです。
北はお母様の出身地です。一度は訪れてみたいですね。
「北の方はエルフ族が主に使用しているみたいなの。ほら、彼女たちって歌や踊りが好きでしょう?自然と身についているのだと思う。妖精もこちらの方に多くが避難しているしね」
「そうでしたわね。南はどうですの?」
「南は遺跡が多く残されていてね、その過程で発見され、伝わっていても不思議じゃないわ。こちらは民間信仰が強くて、他社とあまり交流をしないところがあるからなかなか情報は集まらなかったけれど」
「なるほど。恐らく、南の魔術師が作られたのでしょうね?」
「あら、その根拠は?」
「文字です。北と南ではかなり違いますから。お母様に確認したところ北のものではないと判明しましたわ。販売されていた商人は旅商人から譲り受けたそうで、その時の商品目録の確認が取れたそうです」
「商人は南の文字を読むことができたのか?」
「いえ、下の方に共通言語が用いれていたそうです。そこには香り高い香水だとかかれていたそうです」
「それで、購入したものが使用後の周囲の反応を見て噂の恋の秘術であると気が付いたわけか」
まずは旅商人を捕まえなければ早いのですが、無理に等しいのでしょうね。旅商人は一度訪れ達はしばらくは訪れませんから。
今は魔方陣で恋の秘術を無効化していますが、定期的に耐久度の確認が必要なうえに人によっては持続が難しいデメリットもあります。どちらにせよ、成分分析も進めつつ、解決法も導き出さなければなりません。