進捗発表会再開
会議室にはすでに人が集まっておりました。いえ、退室した方が少なかったのでしょうか?一挙手一投足を見られているように感じます。試しに視線を感じた方へ微笑みかけると怯えたような悲鳴を上げられました。
え?そんなに恐いですか?私。
「アレクサンドラ嬢、その、あまり気にするな」
「まさか、怖がられているなんて思いませんでしたわ...。」
ああ、あの時に戻ってしまったようです、私はまだ変われていないのでしょうか。
「では、続きから始める。次の発表者は、」
会はつつがなく進行しています。やはり、先ほどまで私は余計な質問をしてしまっていたようです。そう考えながらぼんやりと内容を聞いては流していきます。
「その原理の説明を詳しく頼めるか?」
「ええっと、これは、そう、水属性を主軸にして、」
随分と効率の悪いお話をされているようです。指摘するときっと長引いてしまうのでしょうね。
「ううむ?だが、そうなると、」
「ここは水属性だと質も効率も落ちるのじゃが、その対策はどうするつもりじゃ?」
「えっと、そこは研究中でして、」
「それと、ほとんどが似たような研究、同じデータというのも気になるが、その説明は頼めるか?」
「え、えっと、」
魔王様も国王陛下も気になっていたことなのでしょうね。同じような研究結果が提示されているのですから。あまり、悪いことは考えたくないのですが、どうなのでしょう。
お次はノア様のようです。確か、香水瓶に刻まれたであろう魔法陣についてでしたわよね。ほとんどが中身に注目していただけに面白い着想だと言えるでしょう。
「確かに、強力なものであったからな。中身だけでなく瓶にも注目するとは面白い発想じゃ」
「ただの模様だと思っていたが、まさか、魔方陣だったとは...。」
ノア様の後は私です。何やらひそひそ声が聞こえますが、無視します。私の研究内容は物質の状態変化についてです。いくつかの例を挙げ、今回使われた材料と相性の良い方法をまとめて発表します。
「以上のように変化させることが可能であると考えますわ。特に、毒草や毒のある花などの毒成分を弱め、それ以外の効力を上げられることもできるため、有効的であると考えます」
少々、乱暴な質問に対してもできるだけ丁寧に答えるよう、心がけます。言葉遣いに対して魔王様が顔を顰められているのが目に入らないのでしょうか。
「静粛にせよ」
私への野次が収まりました。静かになったところで私も席に着きます。
「此度は様々な意見を交換できるよい機会であったと考える、これからも研究に励み、事態をできるだけ早く収めることができるよう期待しておる」
国王陛下のごあいさつの後次々に退室していきます。一部の方は呼び止められておりました。とても嬉しそうな表情をされているため、お褒めの言葉をいただけるとお思いになっておられるのでしょう。
「芳しい結果は特にございませんでしたね」
「報告書を読んだときから予想はしていたであろう」
馬車を待つ間、ノア様とそのようなお話を致しました。魔王様にいただいて魔界の研究者の報告書の方が読みごたえがあります。それに、研究の参考資料として挙げられていたものはどれも最近に出されたもので、古代文字で書かれた資料は見当たりませんでした。
現代ではあまり使われていないとはいえ、目を通すなり参考になさるなりすればマシにはなったと思うのですが。いえ、今沙汰言っても仕方がありませんね。
馬車が来たことを確認して私達はそれぞれ帰宅しました。
今日はオスクリタが我が家へお泊りされます。今日の反省とともに興味深い意見も聞くことができるでしょう。私ははやる気持ちを抑えつつも屋敷へ着くのを今か今かと楽しみにしておりました。