思ったよりも大変
登校したということは、放課後はもちろん、東屋へと向かいます。向かう前に図書館の方では植物や歌の伝承に関する本をいくつかお借りしました。
「やあ、アレクサンドラ嬢、久しぶりだな」
「ノア様、ごきげんよ、大丈夫ですか?」
「最近は課題が多くてな...。」
「お疲れのようですね。ノア様もいくつか調べ物をされているのですよね?」
「父上に協力するよう言われたからな。君の方が大変だろう?学園を休むくらいなのだから」
「直近の3日間はお母様に研究禁止令を出されましたのでお休みすることができましたわ。ただ、ふとした瞬間に思考してしまうので大変ではありましたわ」
メモをお取りすることはどうにかお許しをいただけたのでアイデアを逃すことはございませんでしたが、次はこのアイデアをどれから試すのかという問題がございます。ですが、この状態のノア様にご相談をしても良いのか迷ってしまいます。
「何だ?俺の顔に何かついているか?」
「いえ、お父様のおかげで期日を伸ばすことはできましたが、どちらから手を付けるべきか考えていただけですわ」
「王宮ではすさまじい攻防が繰り広げられていたぞ」
「ジャクソン様、アウロラ様、ごきげんよう」
「アレクサンドラ様、体調はいかがですか?」
「問題ありませんわ。ご心配をおかけしました」
「ジャクソン様に聞いて驚いたわ。無茶をなさっていただなんて、」
無茶というほどではございませんが、ここで否定してお父様の交渉を無駄にしたくはありませんし曖昧に答えておきます。
「コリン侯爵が父上に何度も意見を述べてな、父上もやはり事態の収束と究明を早急に行いたいがゆえに突っぱねてなかなか大変だったぞ」
お父様は私のためにかなり頑張ってくださったようです。帰宅しましたら何か差し入れをご用意しましょう。
「でも、私も侯爵様の意見に賛成だわ。急務とはいえ、まだ学生の身であるアレクサンドラ様に大きな負担を掛けられるのはどうかと思うもの」
「だが、多くの国民を安心させるためには、」
「その国民の1人であるアレクサンドラ様を犠牲にしても良いとお考えなのですか?まだ未成年ですよ」
これは、お2人が喧嘩を始めてしまいそうな予感です。
「私も多くの方の不安をぬぐうことができるというならば協力は惜しみませんわ。ただ、」
「ただ?」
「周囲の方には私が無理をしていると写られていたようですので、自重はしたいと考えております」
「過保護な面はあると思ってはいたが、」
「これ以上、徹夜などをするつもりならばお父様やお母様が王宮へ交渉に向かうと仰っていました」
「徹夜をしたのか?」
「期日を考えると徹夜でもしないと終わらないだろうな。高度な魔術の復活なのだから。ところでどこまで進んだんだ?」
「材料の特定はある程度済みました。問題は組み合わせ方ですわね」
「ただ混ぜればよいのではないか?」
「ただ混ぜるだけならば簡単に量産できるだろうな。恋の秘術はそのような簡単なものではない」
ノア様の仰る通りです。大変なのはこれからだと言えるでしょう。
「その本を今から読み解くのか?」
「いえ、参考書です。いくつかの植物の特性を調べるための」
できることならば魔術師や魔導士の方にやっていただきたいところですが、別のことでかかりきりとなると仕方がありません。まあ、方便でしょうが。
「ノア様にご相談があります」
「なんだ?」
「物体の変質魔術についてです」
「水から氷を生成するあれか。だが、植物に使ったところで精々発酵や乾燥ではなかったか?」
「こちらを見ていただきたいのです」
私は学園祭の時に余った薔薇をお見せしました。
「簡単にですが、少しだけ試してみました」
「右の方が香りが強いな。なるほど、言わんとしていることはわかった」
「どういうことだ?」
「香水にはいくつかの者が混ざっていてそれのいくつかに魔術がかけられているというわけだな」
「ええ。中には毒成分を含んでいる植物も使われていますからより一層吟味しなければなりませんわ」
「では、植物の特性をまとめたものが必要ということだな。いくつかまとめたものならある。全てを網羅してはいないが使えるだろう」
「ノア様、ありがとうございます」
やはりご相談して良かったです。ジャクソン様は呆気に取られていますが、研究とはこういうものです。古代魔術を復活させるだけでこのような手間なのですから、1から新たなものを作られる方は本当に大変でしょうね。
その後、ジャクソン様も国王陛下に期日をもう少しゆっくりしていただけるように進言すると仰ってくださいました。ついでに、この結果は魔術師や魔導士を厳選して研究を進めることも約束してくださいました。