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沈めてしまいたい

 会場内の殿方のほとんどは1人の女性に釘付けのようです。あの方は、青のクラスの方、ですよね。衣装を見ると最終学年の方のようです。


「お兄様、体調に変化はありませんか?」

「大丈夫だ。しかし、すごく甘ったるい匂いだな。向こうには女生徒に囲まれている者がいるが、アレックスは平気か?」

「少しだけ違う香りですね。甘ったるいことには変わりありませんが。若干の成分が異なるのかは気になるところですわね」

「ふむ、平気そうだな。どうする?」


 どうする?と言われましても、この空間に違和感を覚えている方が何人いるのかがわかりません。会場内にいる方々は誰も変に思われていないようですし、むしろ、特になびいていない私達が変に見えてしまう現象が起きています。


「お兄様、なんだか近づいてきていますわよ」

「女生徒に囲まれていた者はお前に近づいてきているぞ」

「お逃げした方がよろしいのでしょうか?」

「そうは言ってもな、逃げ場はなさそうだぞ」


 そうこうしている内にかなり接近しております。あ、お兄様が捕まってしまわれました。


「コリン様、どうして避けようとされるのですか?」

「多くの者を釘づけにされていましたので私なぞ眼中にないと思っていました」


 笑顔で対応されていますが、内心は穏やかでないことが見て取れます。今、思い出しましたが、彼女は確か、ミア・エヴァンス様だった気がします。青のクラスではかなりの有名人と以前お聞きしました。

 まあ、お兄様は御守りをお持ちですし大丈夫でしょう。問題は、


「浮かない顔をして緊張しているのかい?心配しなくても僕がリードしてあげるよ?」


 お兄様の様子を投げめている間に近づいてきたこの方です。無視をしていてもご自身の都合の良い方へ解釈してしまう方だということがわかりました。諦めて離れてくださったら私の心の安定が保てるのですが、そうはいかないようです。

 落ち着くのよ、アレクサンドラ。いくら腹が立っても先に手を出してはいけないわ。そう、穏やかで寛大な心で、


「実に美しい髪だ。まるで妖精が魔法をかけたようだね」


 どうしましょう。今すぐに破滅に追い込む魔術を掛けたいと思ってしまいました。いいえ、耐えるのよ、アレクサンドラ。ここで手を出しては昔の私に戻ってしまうわ。それだけはダメよ。


「女性の髪に触れるのはマナー違反だとは思いませんこと?」

「ようやくこちらを向いてくれたね。アレクサンドラ」


 この方に呼び捨てされる筋合いはないのですが、私のことを下に見ていることはわかりました。腹立たしいです。いえ、寛大なお心で接するのです。

 淑女たるもの、簡単に相手に隙を見せるような真似を取ってはいけません。あくまでもにこやかに冷静に徹するのです。


「私に何か御用ですか?えっと、」

「ああ、僕はリアム・パーカー。気軽にリアと呼んでくれ」

「それで、何か御用でしょうか?リアム・パーカー様」

「ふふ、気が強い女性は嫌いじゃないよ」

「私は強引な殿方は苦手のようですわ」


 いけません、つい本音が。

 周囲の女性たちの視線が厳しいものになりました。すごい人気ですね。


「気に入ったよ。僕と踊ってはくれないかい?」

「残念ですが、先約がおりますの」

「へえ?女性を1人にしておくだなんて酷い男だね?」


 貴方も言えた口ではないような気がしますが。いえ、言ってはいけませんね。視線がより一層厳しくなることが目に見えています。

 さて、どのようにしてこの香りの原因を突き止めましょうか。


「何かを考えている姿もとても愛らしいね」


 ...。一瞬悪寒が走りました。恐ろしいことです。今すぐに殴り飛ばすか魔術で沈めてしまいたいです。水のドームを、いえ、周囲を巻き込みかねません。

 どなたかこの方を殴り飛ばすなり蹴り飛ばすなりしてくださらないかしら。


「何を考えているんだい?」


 大変癪に障りますが、少しだけ軟らかい態度を取ってみましょう。


「いえ、先ほどから甘い香りがしますので気になってしまっただけです。いったい何の香りでしょうか?」

「おや、君も気が付いてしまったかな?実は、特別な香水を使っているんだ」

「香水、ですか?」

「ああ。気になるかい?」

「ええ、とても気になりますわ」


 それに含まれている成分が。


「満月に咲く花と新月に成る実をを混ぜた香りなんだ。それからいくつかの特別なハーブをね、特別な配合で調合しているんだ」

「特別製なのですね」

「そうだよ。君も欲しくなったかい?」

「ええ、商会を教えていただけますか?」

「もっと親密な関係にならないと教えられないな」


 まあ、ある程度の成分は絞れましたし、香水を扱っている照会の情報を集めていけば見つかることでしょう。お兄様の方はどうでしょうか。


「アレクサンドラ嬢、ここにいたのか」

「あら、ノア様どうかなさいまして?」

「少し聞きたいことがあってな...」

「アレクサンドラのダンスの相手はノア殿だったのか。女性を放っておくだなんて紳士として恥ずかしいのではありませんか?」

「何の話だ?」


 巻き込み事故、申し訳ありません。


「アレクサンドラ嬢が望むなら踊るが、」

「結構です、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」


 あら、お兄様も助けを求めています。少しは手助けをしなくては。


「お兄様、そろそろ休憩は終わりではありませんか?」

「そ、そうだな、そういうわけで私は失礼する」

「ああ、コリン様...。あらぁ、ノア様だわ」


 今度はノア様に照準を合わされたようです。


「お話はあちらの方で伺ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 周囲から痛いほどの視線を浴びながら落ち着いて話ができる場所へと移動します。深刻そうですし、私も意見が欲しいと思っていたので良いタイミングだと言えるのでしょう。

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