絶交宣言されました
「もう、何で分かってくれないの!?」
現在、教室前の廊下で私は友人であるマリエル・ブランシェ令嬢に詰め寄られていました。始業前のこの時間では多くの人の目に触れてしまいます。
「サンドラ、聞いてるの?どうしてわかってくれないのよ!」
「マリ、落ち着いて、注目を浴びているわよ?」
「あなたが私の話を聞いてくれないのが悪いんじゃない。それとも、私を悪者にしたいの?」
怒った彼女と話すときはたいていこのような感じです。
私が何にでも同調してくれると疑いません。芯の強さを持った純粋な方、と言えるのでしょうか。
さて、困りました。授業が始まるまで時間が迫ってきています。彼女のことを短時間で抑えるとなると骨が折れそうですね。それに、周囲の視線から察するに状況もよくありません。
「マリエル、授業が始まるわ、この話はまた後で行いましょう?」
また詰め寄られるのは嫌ですが、ここで注目を浴び続け、果ては通行人の邪魔になるくらいであれば甘んじて受け入れましょう。今日は小テストもあるのです。できるだけ授業内容を見返す時間も欲しい。
「そんなこと言ってどうせうやむやにする気でしょ?そうはいかないんだから!」
「違うわ。ここでは人の妨げになってしまうし、今日は小テストもあるのよ?後ほど静かで落ち着いたところで冷静に話し合いましょう?」
「何よそれ、私が落ち着いていないって言うの?」
その通りです。常々落ち着いてほしいとは思っていますが、言ったところで火に油でしょう。
「もう、いいわ!あなたと話すことなんてない!絶交よ、絶交しましょう!」
ああ、何度この言葉を言われてことでしょう。また、なだめるのに時間がかかってしまいそうですね。ここは、私が落ち着いて事態の収拾を図らなければなりません。
大人になるのよ、アレクサンドラ。
しかし、私の口から出たのはとんでもない言葉でした。
「わかったわ。マリ。絶交しましょう」
「は?」
「あなたの望み通り絶交して差し上げますわ。これから二度と私に話しかけないでください。マリエル・ブランシェ伯爵令嬢」
「な、な、」
私は彼女に背を向けました。彼女から発せられる金切り声を聞き流し、教室へ入り、少々の注目を浴びながら席に着きます。
絶交、という言葉に過剰反応して理性的な判断を下すことができないなんて。
「ああ、なんてことを言ってしまったのでしょう」
私のその呟きは始業開始のベルにかき消されてしまいました。