年寄りの氷水(正しくは年寄りの冷や水)
「ゴォオオオオ」
大粒の雨と凄い風が私の顔に吹き付ける。あまりの風に身動きもできない。
原付に跨がり、一週間の買い物を終えた、俺ジャンは路上で立ち往生していた。
「くそ。強い風を受けていいのは、全盛期の○川貴教と、篠○涼子だけか…」
下らんことを考えながら、とにかく動けないこの現実をどうにかしようと、風が少し止むのを待ち、近くで原付を降りて休憩する。
「死ぬかと思われ…」
いやしかし、現実のジャンにも会社がある。
「ジャンさんは、台風の中外に出て、原付で転んで死にました」
洒落にならん自分の死因を考えて首を振る。一応、俺にもプライドはある。勘弁してくれ。あまりにもダサイ。
台風の銀座と呼ばれていた地域在住の俺。
厳密には違うらしいが。台風では必ずジジババが死ぬ。おそらく家族が止める中「畑が心配」などと理由がありつつも外に出て、風にあおられて死ぬパターンだ。
それを俺は新聞を読みながら「年寄りの冷や水もいいとこだぜ。年を考えず無理するから」と、あまり同情せずにいたが。
「今の俺、まさにそうじゃねぇか」
土曜日は、食料買い出しと決まっている。バスやモノレールが止まろうとも、スーパーが開いていれば。という考えは、恐ろしく甘かった。
少し休んで慎重に家に帰れた。パンツの中まで雨に濡れまくりであった。
⭐⭐
次の日。
「バスとモノレールが動いているぜ!」
少しは学習した? 俺。念のため歩きで移動。日曜日は、喫茶店巡りをしながら読書と決まっている。ジャンは、ルーティンをこなさないと気が済まないタイプで
台風など小さな理由でしかない。
そのはずだった。
「ドザァアアア」
盆を覆すような雨どころではない。「天の川がそのまま地上に降り注いだのではないか」という雨が降り注ぎ、そもそも傘が役に立たない。
行きたかった喫茶店に行く。店は開いていたが、困った顔をした店長が一人。二、三十人は入りそうな店に客は俺一人。かんこどりが鳴きまくっている。
客がいないので、しっかり読書して店を後にした。店長は、ものすごいいい人だった。
その後、どうしても行きたかった所へ。
親や弟の影響と、辛かった時に通うようになった宗教施設へ。
この週は、パワハラが三度の飯より好きな奴の手下との面談があった。どうしても祈りを捧げずにはいられなかった。
「ドザァアアア」
まるで、俺の気分のような雨。手下は、多分そいつが「人を殺せ」といったら平気で殺してきそうな、頭の中身が入っていないタイプ。何を企んでいるかわかったものではない。
目的地に着き、しっかり祈る。
「ドザァアアア」
雨の中、心はかなり軽くなった。
バスで帰るも、何か踏んでしまったか足が傷だらけだった。
俺も「台風の日に死ぬ年寄りにならないように」心から誓った二日間であった。