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小麦畑の怪 夏の暮

作者: 荒井潤

短編です。

初投稿です。

よろしくお願いします。


    一


 その辺りでは夏の時期になると、夕陽が低い位置から差して、馬の背になっている一本道やその両側に広がる小麦畑を、目が痛むほど橙色に染め上げることがしばしばある。近くには高い建物の一つもなく、照らす陽を遮るものが何もないので、こういったことは雲が空を完全に覆わない限り、よく起こった。村の人々はこの現象を崇高であるとして肯定する者が多かったが、しかし中ではそうでない人も居て、なんでも彼らはそれを恐ろしいと言って、その時間帯に外へ出るのを渋るのであった。後者の人々は年寄りに多く、彼らが言うには、夕陽が勢力を保って事物を気持黄色に染め上げている間はいいのだが、問題はそれ以降、夜が夕方を完全に呑みこむ前にあるのだという。その時間帯には、それまでは美しく輝いていた橙を闇が次第に侵食して、果ては辺りが濁った琥珀色に包まれるというのだが、その景色とはまるで地獄の入り口のような趣があるらしい。確かにその間は肯定派も不気味さを感じないではないらしく、彼らがその時間帯に外を出歩くことになった場合には、視線を足元に固め、歩く足も自然早まっているようだった。ときに、夕陽に侵されて橙色になった無数の小麦が、一陣の風によってさあと揺れる様は肯定派にとって見ていて壮観で、それがかの現象を美しいと言わしめたる所以でもあるのだが、しかし反って風の全く吹かないときは、小麦が人のように直立して、一穂一穂がこちらをじっと見ているように思われるので、道を急ぐ彼らを嫌に緊張させるのである。

 彼も肯定派の一人だった。彼は村の外で仕事に就いているために、毎日最寄りの駅まで十五分くらい自転車を漕がなければならなかったのだが、しかしこの時期だけは、その景色をより堪能する為に、自転車は止して歩いてその道を行くのであった。……



 その日彼が仕事を終わらせたのは一七時三〇分で、最寄りの駅に着いたのはその一時間後だった。その日はいつもより三十分余計に働いたので、当然だが三十分遅く帰路につき、お陰で夕焼けを逃してしまった。日暮れの時間帯も日が経つにつれ変わるこの時期ではあるが、よく夕焼けを楽しめるのはいつも凡そ十八時頃であって、その日はもう三十分以上過ぎていた。夕焼けを逃して尚歩かねばならない面倒に、彼はもうすぐ悪態を吐くところだった。しかしその悪態は、改札を出て後、例の地獄の入り口ともあだ名される嫌に不気味な外の景色を見て、飲み込まれた。

その景色とは、彼が普段避けていた例の光景であった。彼はその鈍重な風景に少し圧倒されはしたものの、しかし道は道と家路を急ごうと、村へ続く一本道に足を遣ると、やはり普段の彼同様、他の村人もこの時間帯の外出は避けているようで、道の上には人の姿がひとつも見られなかった。加えて、その日は極めて無風だった。彼が道の真ん中をやや小走りに行く姿を、無数の瞳が追っているようだった。彼が心地の悪さから思わず後ろに目を遣ると、一本の案山子がこちらを向いていた。薄暗く気味の悪い琥珀色の中であっても、彼の「の」の目はしっかりとこちらを捉えていた。しかしあの案山子は先程彼が改札から出たときには、その方を向いてはいなかったか…。考えていると、案山子の右の肩に大きく黒いカラスがとまって、クルクルと喉を鳴らした。

 村までもう少しというところであった。彼は村の家々の灯りに安堵を抱き、自分は一体今まで何を恐れていたのかと普段の落ち着きを取り戻して、それまで小走りだった足を緩めた。その頃にはもう夕方は夜の闇にほとんど呑まれていて、あの地獄のような光景は終わろうとしているようだった。そうした安心から、ふと彼が小麦畑に目を遣ると、小麦は依然直立していて、先と同じように彼の見るのを無表情に見返していた。彼は心地悪さを思い出して、視線を小麦から外そうと宙を漂わすと、その小麦畑の奥に一本立つ青々したクヌギに目がいった。そしてその木の下に、ふと人の影を認めた気がした。彼は足を止めて、もう一度よく眼を絞ってクヌギを見た。するとそこにはやはり人の姿があるようだった。彼は気味が悪くなって、村のほうへ駆けだした。ふと前方の空を見上げると、黒い雲の間からじくじくと薄汚れた橙が漏れて、血液のように空を巡っていた。

家に帰ると、彼は気味の悪さから全ての部屋の灯りを点け、外が見えないように或いは外から見られないように、全ての部屋のカーテンを閉めた。果たしてあの人影が本当に人だったのか彼の見間違いだったのかは、結局のところ分からず仕舞いである。その日は早いところ寝ることにした。

風呂に入っていると、開けた窓から時々赤ん坊の泣き声のような音が、虫の騒々しい鳴き声に混じって聞こえてくるようである。時に猫の発情した鳴き声とは、赤ん坊のそれとよく似ることがあるので、彼は特段驚く様子もなく、無心で湯に浸かっていた。しかしその猫の鳴き声が次第に大きくなり、遂には虫の鳴き声にも勝るようになると、彼も無関心ではいられなくなり、ふと窓の外を窺い見た。すると、左のほうでなにやら明滅するものがある。角度を変えてようやく死角を抜けた左の端には、街灯があった。その街灯は調子が悪いらしく、明滅を繰り返している。そうしてしばらく鳴き声の正体を確かめようと辺りを見回していると、視界の端で街灯が何かを照らしたような気がした。ふと視線をそちらに移すと、街灯は明滅の度に、向こうを向いて傘を差す人間の姿を浮かび上がらせているのだった。彼が驚きのあまり硬直してその姿を見ていると、その者はゆっくりと身体を反転させて、こちらへ振り返るようであった。そして遂に顔が見えようかというとき、街灯は完全に消え、辺りは真っ暗になった。彼は、外が不自然に静まり返ったのに気づくことも無く、窓を閉めて、早々に風呂場を後にした。




    二


 翌日、彼は目が覚めると布団の横のカーテンが、彼の頭の位置で、十センチくらい開いているのに気が付いた。昨日のこともあって、用心はし過ぎることはないのに、なんたる不注意だろうか。なんだか心地の悪い思いを朝からして、憂さ晴らしに勢いよくカーテンを開けると、いつもの山が心持接近して見えるほど、空気の澄んだ快晴だった。眼下では、目に眩しく、金色に照り輝く小麦が、知らぬ顔で風に揺れていた。風に正直に身を任せる彼らは、吹かれるたびに波を作っていた。小麦の美しい姿を眺めていると、昨夜の気味悪さも次第に引いていくようだった。

彼には今夜、同窓会が控えていた。彼としては、昨夜のこともあるからあまり暗くなって後に、――特段あの地獄の帳が下りたような時間帯に――外を出歩くのは気が進まなかったのだが、せっかくの誘いを畑に人が云々で断るのも悪い気がしたので、ぐずぐず予定に従って参加するつもりだった。それは中学の同窓の間で開かれる食事会だった。会場は当時の先生らが行きつけにしていた居酒屋らしいが、しかし彼は村にある中学校ではなく、駅を三つ越えた先にある私立の中学校に通っていたために、中学の集いといえど、村を出て駅まで歩かねばならず、それは彼にとって案外馬鹿にできない運動だった。集合時間は十九時だった。目的地の居酒屋までは遅く見積もっても一時間で間に合うために、十八時に家を出ればそれで十分だったのだが、しかし暮れが次第に早くなるこの季節のこと、万一にもあの恐怖を誘う深い橙に身体を染めることのないよう、彼はそれよりも一時間早く、十七時に家を出ることにした。

十七時が近づくと、昼間場を恣にしていたアブラゼミの勢力は徐々に弱まり、代わりにヒグラシが細く鳴き始めていた。彼は思いの外早く日暮れの兆候が出たことに焦りを覚え、財布をポケットに入れると、帰りを案じて薄く羽織るものを持つことも忘れて、すぐに家を出た。鍵を閉めている間は手元の作業に心を取られていたために気が付かなかったが、彼が振り向いて歩き始めると、先程まであれほど勢力争いをしていた蝉が両者とも息を潜めて鳴き止み、夏場には珍しい静寂が流れていることに気が付いた。死んだように黙った蝉たちは、彼が村を出るまで凝然と息を殺し、漸く彼が視界から消えると、彼の存在を搔き消すようにまた騒ぎ出した。

まだ青が残る空は、彼を安心させた。この調子でいけば駅までの三キロを歩き切るより前に日暮れが訪れることもないだろうし、帰るころにはすでに暗くなっていることだろう。彼はより早く畑を抜けるよう自転車で駅まで行くのを、帰りの酩酊を危惧して避けたが、その裏にはそういった確信があったのだ。気がつけばもう駅は目の前だった。時間は一七時半を五分過ぎたところで、少し早いようであったが、時刻表を確認すると次の電車まで二〇分近く待たされるらしいので、向こうに着くのは丁度いい時間であるようだった。売店で冷たいコーヒーを買い、プラットホームのベンチに腰を下ろした。空を行く雲を目で追ったり線路の向こうに広がる小麦畑を何となしに眺めていると、奥に聳える山の向こうから日暮れの橙が赤潮のように顔を出しているのに気が付いた。彼は何とも言えぬ緊張を心に宿し、電車が必要以上に待ち遠しく、しきりに腕時計を見た。すると、山の奥から段々とこちらへ広がる空の橙に気を取られていて気が付かなかったが、村から一直線に続く、彼の通ってきた道を、同じようにこちらへ向かう一人の女性があった。彼女は日傘をさしており、顔は陰になってよく見えないが、半袖の腕に見える光を吸うような白ははっきりと確認できた。彼がもっとよく見ようと前傾になり視点を絞ると、その前を電車が遮り、彼女の姿は見えなくなった。

この電車は二両である。普段から利用する客が少ないのと、ましてやこの中途半端な時間に街へ上る人間も少ないと見えて、二両のうちに乗っているのは彼だけであった。彼が奥の窓から先程の一本道に日傘の女性の姿を探すと、彼女はもうどこにも見当たらなかった。彼は眼を道に残したまま、ぼんやりと考えた。彼女はこの電車に乗るつもりで歩いてきたのではなかったか…とすれば次の電車までさらに三〇分待つことになるが…いやそもそもこの辺りにあんな女性は果たして居ただろうか…よもやあの女性こそが以前の………

電車は線路のゆるやかな曲線をなぞって右へ行くようで、今に空の橙に覆われようとしている。




    三


同窓会は予想に反して定刻通りに始まった。こういった旧知の場では必ず誰か遅れてくる者があるが、今回はそうではなかったようだ。隣のFが彼に話す。

「お前はまだあんな村に住んでいるのか」

「いやあ早く出たいは出たいんだけど、いざとなると踏ん切りがどうもね」

「そんなことをやっているから結婚が遅れてるんだぞ。俺たちの間でまだ浮いた話ひとつないのはお前くらいだ」

「Fもまだじゃないか」

「それはそうだけど俺の場合は話が別だよ。俺の周りには女性がたくさんいるけど、お前のところは女性より犬のが多いくらいじゃないか」

「犬は要るよ。ああいう辺鄙なところを一人で生きようって言ったってまあ無理な話だね」

「あれ、犬飼ってたっけ」

「いや」

「するとあんな不気味に大きい家に一人か」

「住んでみると案外便利だよ。毎日違う部屋でご飯食べたりして自由も利くし」

「なんだってそんなことをするんだ」

「使わないと部屋が死ぬからね。やっぱり不満はなくとも不気味は不気味だから、ひとつでも馴染みのない部屋を作ると、急にその部屋が入りにくくなって次第に怖くなっていくんだ。特に二階の北側の部屋とか」

「言われたらそうかもしれないな」

「だから毎日全部の部屋のカーテンを開けるし、夜になればちゃんと雨戸も閉める」

「引っ越したら自分がいかに異常だったか分かるぞ」

「とりあえず今は不満もないし、別にいいんだ」

 Fは曖昧に頷いて刺身に手を伸ばす。用意されている酒はビールばかりで、彼はビールがあまり得意ではなかったが、自転車で来なかったのを取り返すように、半酔になるまで吞み続けるつもりだった。彼は改めて会の顔ぶれを確認した。こうして周囲を見回すと、案外記憶とは頼りになるもので、容姿の雰囲気がすっかり変わってしまって一瞬誰だったか判別できない人も、よく観察するうちに昔の面影がふと思い出され、あああの人かとなるものである。元々私立といってもあまり規模の大きくない学校だったので、一学年の総数もそれほど多くなく、人を覚えるのに苦労はしなかった。彼は今夜ここに居る同窓生は全て、名前までは思い出さずとも認識することが出来た。するとFが、

「ああ、そうだそうだ。お前と同じ村に住んでた小泉はどうしたんだよ」

と切り出した。

「小泉?」

「小泉って居たろ。ほら、お前と小学校が一緒だったじゃないか」

「小泉は…いたかなあ」

「なんだよ、お前が一番覚えていなきゃいけないだろう…。すると小泉はもう村は出たんだな」

「うん、そうだと思う」

「なんだ。あの娘はなんだかいい雰囲気だったからな。よく覚えてるんだ。休みがちだったけど掴みどころのない不思議な娘で……」

 彼は箸を止めて小泉のことを思い出そうと務めた。小学校の記憶は元々あまり無いように思うが、いざ思い起こすと、それらの記憶は拍車をかけるように霞んで、掴もうとしても空を切る。小泉…小泉…。考えていると彼の空想の小泉がぼんやり現れた。確か彼女はいつも木陰で体育座りをしていて…白い服を着ていたような…いやこの校庭はどこだ? これは高校の校庭だったかな…小学校の校庭は……

「おういY! お前はたしか小泉が好きだったんだよなあ」

 Fの声で我に返る。ふと顔を上げると、室内のすべての顔がこちらを向いていた。合わせて襖が開き、着物の女性が彼のほうへ追加のビールを運んでくる。それにしても小泉は思い出せない…




    四


 同窓会は恙なく進みそのまま閉会した。電車が無くなるのを危惧して早々に帰途についた彼は、最終の電車に間に合った。時刻は二十二時五〇分過ぎだった。外の景色を眺めるつもりで窓に顔を向けると、反して窓に映った自分の顔が見えた。電車には彼以外に誰も乗っていなかったので、期待通り半酔の彼は、映った自分の顔で遊んで、最寄りの駅まで退屈を凌ごうとした。しばらくぱくぱくやっていると、向こうの自分が「ごめんね」と口を動かしたような気がした。彼が「別にいいよ」と言うと、電車は駅について、向こうの自分は光に消えた。

 電車を降りてからは楽しかった。酔いに任せて一本道を走ったり回転したりして、あちこちへふらふらした。村への一本道を半分来るうちに、彼は夜道の薄気味悪さに恐怖するほどの心は持ち合わせていなかったが、しかし、それでも何かがおかしいことには気がついていた。彼が酔った頭を振って、異変の正体を探ろうと周囲をきょろきょろすると、両側の小麦の一穂一穂が、彼を無表情に見返した。遠くのほうでは案山子の「の」がこちらをしっかりと捉えていた。そこへカラスが一羽やってきて、頭の上にとまり、大きな口を開けてカアと鳴いた。そして彼が案山子を越して空を見遣ると、その空はこれまでにない程不気味に、どす黒く濁った橙色に染まっていたのだった。

 彼の酔いは瞬時に引いた。異変とは、小麦がこちらを見ていることでもなく、案山子の「の」がどうということでもなくて、この時間帯にして全てが赤らんで見えることだった。彼が腕時計に目を遣ると、二十三時半を回っていた。それにしてもこの現象はどうしたことだろう、この時間に夕焼けとは…。彼は定まらない足を一旦止めて、辺りを今一度見回した。やはり彼らは変わらず見ていた。ところへ、ひとつ風がさあと流れて小麦ががさがさ音を立てると、反って今まで虫の声ひとつなかったことに彼は心づいた。やつらは凝然と私を観察している、私を村から追い出そうとしている…。恐怖に怯えながら彼はふらつく足を忙しく動かした。……

 彼は足元ばかりを見て辺りを見ないようにしていたので、自分が道をどれくらい来たのかわからなかったが、感覚としては八割くらい来たように思った。そこで、残りの具合を確かめようと、両側の畑に目を遣らないように、まっすぐ前だけに視点を絞って、ちらと上目に見た。村は思った通りもうすぐだった。彼は幾らか安心を覚え、今度はもっと自信をもって村の人工的な明かりを目指そうと、視界を上にやった。すると、五〇メートルくらい先の道の上に、人が居るようだった。雨も降っていないのに傘を差して、こちらに背を向けてぽつんと立つ女の姿だった。おどろおどろしい魔界の中でひとり佇む女はそれだけで目を引く対象だったが、肩にかけた傘の下からちらりと覗く白のワンピースは、より彼女の有様を特異にさせていた。何より背を向けて立つ女の横を抜けていくというのは、少し勇気の要ることのようだった。

 彼がえっちら歩くにつれ、次第に彼女は近くなる。しかし彼女に気づいたときよりも幾らか近づいても、傘に隠れて彼女の様相はわからない。果たして彼女は風呂場から見たあの人物だろうか…いやしかしもしそうだとして……。考えている間にも彼の足は依然前へ進むことは止めず、今や彼女との距離は二〇メートル余りに詰まっていた。彼女はまだ向うを向いたままである。彼は凝然と彼女を見詰めたまま、悪い方に振れた考えを何とか平衡に戻そうと努めていた――ところで私はいつの間にか彼女を異形のものだと決めつけてはいないだろうか…もしそうでないとしてこの状況はどうだろう…彼女は後ろの私に気が付いているのだろうか…もし気がついていないとしたら、このような時間帯に女性を驚かすのは本意ではない……。彼は少し砂利に足を擦らして歩いてみる。彼女の反応はない。いよいよ彼は彼女を追い越そうとしている。こう無関心でいられては寧ろ恐怖よりも興味のが勝って、彼は最早女性に対する礼儀を忘れ、女の傘を侵して彼女の横顔を盗もうと、不躾にじろじろと観察する。横顔は見えないが、袖のない肩が今に見えそうだった。そしてその肩が死角を抜けて、漸く視界に入ろうという一瞬間、彼の頭で閃いた。……

「お前、小泉か?」

 傘の中の小泉は、前方に回り込んだ彼に向ってはにかんで、しかし嬉しさを抑えきれない様子で遂には正直に笑って見せた。そしてそのままくるりと回ると、呼び止める彼を後ろに、一面の橙色に染まった小麦畑のなかに姿を消した。しばらくがさがさやって彼女の軌跡を表していた一本の線は、遠くへ行くといつの間にか風と共に消えていた。そして再び、辺りは真っ暗な闇に堕ちた。……


最後までお読みいただきありがとうございました。

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