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7-(6)

 ちょっとだけ人目のつかない場所にリューディアを誘導しようとしたのだが、まだ彼女の腰に手を回していたことに気付いたエメレンスは、慌ててその手をぱっと離した。

「ああ、咄嗟のこととはいえ、失礼なことをした」


「いえ、レンにそういったことをされても、なぜか、嫌であるとは感じませんでした」

 エメレンスはリューディアの腕を引っ張るようにして、建物の陰になるような場所へと連れていった。

 そこで彼女と向かい合う。大きく息を吸って、長く息を吐く。


「……ふぅ。リューディア・コンラット……」


「あ、はい」

 久しぶりに本当の名を呼ばれたリューディアも驚き、つい条件反射で返事をしてしまう。


「ボクは君のことが好きだ。だから、どうかボクと結婚を前提として付き合ってもらえないだろうか……」


 彼女は目をくりくりと大きく広げて、再びきょとんという表情を浮かべる。先ほどから、リューディアにとってはきょとんとするような出来事が続いている。

 何か言わなければならない、とリューディアは思った。口を開くのだが、言葉が出てこない。だから、口を閉じ、もう一度何かを言わなければ、と思って口を開く。だけど、言葉は出てこない。

 その様子を見ていたエメレンスは少しだけ心配になってしまう。まるで彼女が、童話に出てくる言葉を失った人魚姫のように見えてしまったから。


「ディア、大丈夫か?」


「あ、はい……。あまりにも、突然のことで。その、驚いてしまって」

 カチャリと音を立てて、リューディアは眼鏡を押し上げた。


「突然、このようなことを言って、驚かせてしまって、すまない。だけど、今、言ったことはボクの本当の気持ちだから。ディアが、兄上と婚約していた時からずっと君のことが好きだった……」


「ですが、わたくしはこのように醜い女です。それが理由で、モーゼフ殿下からは婚約を解消されました」


 エメレンスはゆっくりと首を横に振る。


「前から言っていただろう? その、美醜というのは人による感覚によって左右されるものだって。ボクはディアのことが醜いとは思わない。ボクにとってはとても素敵な女性だ」


「ですが。わたくしのような醜い女性が、その、レンのような立派な方に相応しいとは思えないのです……」


「相応しいとか相応しくないとか。そんなのは関係ない。大事なのはボクと君の気持ち。君が引き受けてくれるのであれば、すぐにコンラット公爵家に使いを出す。恐らく、コンラット公爵も認めてくださるはずだ。もちろん父も母も、認めてくれる。いや、認めさせる。ボクと君が、その、一緒になることを」


「ですが……」

 と言う、リューディアの頬は少し赤らんでいる。


「ボクが聞きたいのは君の気持ちだ。君がボクのことを嫌いというのであれば、すっぱりと諦める。もう、二度と君の前に姿を晒さない。そのくらいの覚悟がボクにはある。ねえ、ディア、君はボクのことが嫌い?」


 リューディアはふるふる、と首を横に振る。


「じゃ、ボクのこと、好き?」


 好きか嫌いか。で聞かれたら、恐らくそれは好き。だけど、その言葉を軽々しく口にしてしまってもいいのだろうか。

 と、同時にエメレンスとの関係を失いたくないという思いもあった。彼がこのシャルコに来てから、気が付いたらいつも側にいてくれた。いや、シャルコに来る前からも。悲しんでいるリューディアに寄り添ってくれたのは、いつもエメレンスだった。彼がいてくれたから、モーゼフに冷たい態度をとられても、立ち直ることができた。エメレンスがいてくれたから――。

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