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そしてもちろん、そのような行動に出たエリックに、エメレンスも焦っていた。だから、こうなることを恐れて、彼女には毎年眼鏡を贈っていたというのに。それで今まではうまくいっていたというのに。
助けを求めるかのように、リューディアはエメレンスを見上げた。エメレンスはごくっと大きく喉を鳴らして唾を飲み込む。
「エリック、悪いがそういうことだ」
エメレンスはすっとリューディアの腰を抱き寄せる。それに驚いているのはもちろんリューディアで、彼女の顔は「どういうこと?」という困惑の色で溢れている。
「あ、やっぱり。お二人はお付き合いなさっていたんですか……」
目の前に現実を突き付けられたエリックは、しゅんと肩を落とす。それでもエメレンスの身体は少し震えていた。彼にリューディアを盗られないように、という思いでの行動だったのだが、彼女に引かれていないだろうか、と。
「では、お邪魔虫はさっさと撤退します」
エリックは少し寂しそうに、事務所の方へと向かって早足で歩きだした。
リューディアとエメレンスは二人、その場に残される。
気まずい、というのがエメレンスの気持ち。あの場を誤魔化すために、エリックの前だからこそあんなことを口にしてしまった。さて、リューディアはどう思っているのか。
「あの、レン……」
思わずエメレンスは身体を大きく震わせてしまった。これから死の宣告でも与えられるのではないか、というほどに。
「あの、なぜエリックは一人で先に行ってしまわれたのでしょうか? それに、お付き合いってどういう意味でしょうか?」
目をくりくりと大きく広げて、首を傾げているリューディアを表す言葉は、きょとん、だ。間違いなく彼女は、きょとんとしている。エリックに問われて、あれだけ驚いていたにも関わらず、今はきょとんとしている。
「わたくしとレンは、そのお付き合いをしていたのでしょうか……。その……、わたくしが気付かないだけだったのでしょうか……」
気付いていたら、先ほどのエリックの問いにはっきりと「はい」と答えられたというのに。変に悩まなくて済んだというのに。
「いや、すまない。あれは、エリックを誤魔化すための、その場のでっちあげというか……」
「つまり、わたくしとレンがお付き合いをしているのは、嘘であるということですね?」
「え、とまあ。今までは嘘だったかもしれないが、できればこれから、それを本当にしたい、というか……」
エメレンスも自分で何を口走っているのかがわからなかった。だが、エリックを見ているともう不安しかない。きっと彼女はこれからも、こうやって他の男に口説かれるのだろう、と。
「ディア、ちょっとこっちに来てくれないか?」
この場所は目立つ。事務所に向かう道のど真ん中。まだみんなが出勤するには早い時間ではあるが、それでもいつ他の人とすれ違うかはわからない。




