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祝勝会

「本戦出場決定おめでとう羅刹!」


 その日の深夜。


 旗大路フーズの会社では、会議室で羅刹達だけのささやかな立食祝賀会が開かれた。


 参加者は華奈、礼奈、タマちゃん、羅刹、好美の五人だけだ。


 料理も、全て旗大路フーズの在庫商品を使ってタマちゃんと好美が料理したものだ。


 でも五人の表情は決して暗く無い。


 もとからNVT世界大会出場を祝うのが目的で、その事実がみんなに希望を与えていた。


 むしろ一ヶ月、極端にハングリーだった羅刹はおいしそうに料理を頬張り続けている。


 主食が公園の葉っぱと段ボールはダテではない。


「礼奈ちゃん礼奈ちゃん、そういえば選抜大会だけど、せっちゃん以外に特別凄い人って誰かいた?」


 好美に聞かれて、礼奈はジュースのグラスをテーブルに置いた。


「圧倒的っていうのは印象が無かったわね。でもブロックは三〇もあったし、選抜大会は他のドームや会場でもやっているし。ていうか代表候補権どころか代表権持っている会社もあるしね」


「代表権?」


「前回の大会で上位入賞の会社が持っている権利で、ようするに選抜を免除して、いきなり本戦で戦える権利よ」


「へぇ、じゃあ凄く強いんだね」

「日本だと……姉さん、誰でしたっけ?」


「全大会優勝のトライアングルエニックス、通称トラエニ社と準優勝のMTT社ですわ。トラエニは空手家の虎山剛輝さんが選手ですが、MTT社の選手は引退してしまったので、今年は違う選手をぶつけてくるでしょうね」


「トラエニの代表選手が虎山剛輝って安直、っていうより滅茶苦茶名前強そうだね」


 好美の感想に、礼奈はジト目になる。


「いや、天城羅刹もどうかと思うけど……」

「せっちゃんは鬼のように強くなれるようにって、羅刹って名前なんだよ」


 えっへん、と大きな胸を張って何故か自慢する好美。


「鬼ってよりも餓鬼じゃない?」


 礼奈の視線の先では、羅刹がもくもくと料理を食べ続けている。

 一応祝賀会なので、料理は五人分以上用意されている。

 でも羅刹なら、残った料理を全て処理してくれるだろう。


「そうだ、ねえ羅刹」


 礼奈は羅刹に歩み寄ると一言。


「あらためて言うわ。天城羅刹。よく選抜大会で優勝したわ。このまま本戦でも頼むわよ」


 雇い主として、礼奈としては精一杯の労いの言葉だった。


「知っての通り、うちは今、お金がないから大したことはできないけど、何がして欲しいことがあれば可能な限り叶えてあげるわ」

「…………」


 言われて、羅刹はコップの中の液体ヨーグルトを吞みほした。


「そうだな、じゃあ金がかかるなら別にいいんだけど、可能なら買い戻したいものがあるんだ」

「買い戻す?」


 礼奈はあごに手を当てて聞き返す。


「ああ、うちの道場と一緒に道場の中の練習器具も差し押さえられちまったからさ。だから、一つだけ買い戻したいものがあるんだ」

「へぇ、どんなやつ?」

「ああ」


 羅刹は言った。


「五〇〇キロのサンドバッグだ」

「ご、五〇〇キロのサンドバッグ?」

「おう、金属繊維の中に鉄粒が入った特注品だ。本戦までの二カ月、やっぱあれを叩かないとな」


 歯を見せて笑う羅刹に、礼奈は呆れてしまった。


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