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ヘビー級ボクサーVSミニマム級ボクサー

 その時、会場内は誰もが手に汗握り、固唾を吞んだ。

 Cブロックが終了した二時間後。

 夕食を挟んだ午後七時。

 Dブロック第一試合の開始を一〇万の観客が待ち望んでいる。


「何よこの空気、何かさっきまでと違うんじゃない?」

「当然よ礼奈。この一戦は、多くの格闘技ファンが見たいと思っていた夢のカードなのだから」


 華奈に続いて、好美も、


「夢の戦いっていうよりも、夢をかけた戦いだね」


 最後に羅刹が厳粛に、


「神話が守られるか、神話を崩して新たな神話を築けるか」

「ちょっと、どういう」

『皆様お待たせ致しました! 本日のメインイベントの一つ、そう言った差し支えない、この一戦がついに始まります!』


 宇佐美のマイクに、早くも一部の観客が歓声を送る。


『ボクシングは厳格な体重制を取って参りました。重たい方が有利。重いほうが強いに決まっている。最強とはヘビー級チャンピオンの事だと……ですが! ですが今日! 地上でもっとも偉大で大馬鹿野郎なチャレンジャーが登場! では参りましょう! 選手入場です!』


 観客席から歓声が上がり、会場のボルテージがどんどん上がって行く。


『まずはボクシングヘビー級世界チャンピオン! アメリカ企業! エクソン・モーデル代表! 身長二〇九センチ! 体重一五五キロ! アイアンフィスト! マイク・ロビンソン選手ぅ!』


 短い金髪碧眼の長身男性が入場。全身を分厚い筋肉が覆い、ヘビー級ボクサーの中でも最上級の体格、いわゆる巨人選手だ。


『続きまして、体重差の牙城を崩そうと挑む小さな勇者! ボクシングミニマム級世界チャンピオン! 日本企業! クリフトン代表! 身長一五一センチ! 体重四七キロ! 小さな巨人! 岩波伸二選手の入場でーす!』


 女子並どころか、女子の中でもさらにひと際軽い、合気道家の三島陽子よりも華奢な青年が入場。


 身長二〇九センチと一五一センチ。身長差五八センチ。

 体重一五五キロと四七キロ。体重差一〇八キロ。三倍越え。三・三倍。

 大人と子供どころの騒ぎではない。

 大人と幼児並の体格差。


『皆様、これまでの試合を見て頂ければ、体重差があっても勝てるということは証明されたでしょう! ですがそれは蹴りも寝技も投げ技もなんでもありのルールだからです。ですが、彼らは違います! 彼らは! ボクサーなのです! 彼らに許された武器はその拳のみ! 彼らに許された技はパンチのみ! 己が鉄拳だけを頼りに打ち合い彼らにとって、体重差はどうしようもない! 越え用の無い壁なのです!』


 今のマイクと、伸二は、互いに指を完全に覆うボクシンググローブをはめている。

 この手では相手を掴むことも、指で突くこともできない。

 二人の手首から先は、殴る事以外の全てを放棄している。


 両手にボックス、箱を作って殴り合うからボクシング。

 そして箱が開かれるのは、敵に勝利した時のみだ。


『相手を倒そうと思えばいくらでも方法はあります! ですが武器の使用をよしとしないのが武術! そしてさらに拳以外の使用をよしとしないのがボクシング! 拳以外の全てを捨て去り、拳だけに生きて来た両者! 拳に全てを捧げた両者! 格闘技に上下はありません! ですがこの場だけではあえて言わせて下さい! 蹴りも投げも、全てを投げうち、愚直なまでに拳の真理を追い求めた世界最高の男達の中に君臨する二人を、私は讃えたい!』


 今日最大の熱狂ぶりをみせる観客達に囲まれながら、マイクと伸二は向き合う。

 同じボクシングチャンピオンなのに、


 かたやヘビー級というだけで最強と見られ続けたマイク。

 かたやミニマム級というだけで最弱と見られ続けた伸二。


 階級制度神話を守りたいマイク。

 階級制度神話を崩したい伸二。


 二人の眼光が交差して闘志が滾りあう。


『それでは! 両者構えてください!』


 二人がファイティングポーズを取る。

 宇佐美が叫ぶ。


『試合! 始めぇ!』


 マイクの左ジャブが伸二の顔面を打ち抜いた。

 ヘビー級の左ジャブは軽量級選手の右ストレートに相当する。

 本来ならばこれでKO。

 だが、


「小さいからって」


 岩波伸二は普通ではない。


「ナメんなよデカブツ!」


 腹筋だけで跳ね起きて伸二は右ストレートをマイクの顔面に放った。

 マイクはガードする。が、ガードの上からでも響く拳に度肝を抜かれた。


「はっ、来いよヘビー級。ミニマム級の拳でKOしてやるよ!」


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