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人間を超えた魔人

「なによあいつ……国文て一回戦であれだけ圧倒的だったのに全然、話にもならないじゃない……」


 礼奈は目を丸くしたままアゴを振るわせて怯える。


「羅刹、あの龍崎って、いったいなんなのよ……」


 礼奈に問われて、羅刹は背もたれに体重を預ける。


「ミオスタチン関連筋肉肥大の変異型。親父から聞いた話だけどな。礼奈は華奈さんから概要は聞いたんだよな?」

「ええ」


 華奈は、


「私は昨日、ミオスタチン関連筋肉肥大について教えましたが、変異型というのは初耳ですよ?」

「変異型ってなんなのせっちゃん?」


 好美にも聞かれて、羅刹は解説する。


「まず人間はトレーニングで筋肉に刺激を与えて成長ホルモンを分泌させて筋肉を成長させる。でも成長し過ぎないよう、成長ホルモンを押させるミオスタチンっていうたんぱく質を作り出している。このミオスタチンが生成されない、または生成されても筋肉が受けつけないのがミオスタチン関連筋肉肥大。ちょっとの運動でも成長ホルモンが大量に長時間分泌されるから、勝手に全身の筋肉が鍛え去って行く超人体質だ。この体質だと、筋肉量は常人の二倍にもなる。でも和馬はさらにその上を行く」


 羅刹は息を吐く。


「普通はただ筋肉が成長して肥大化するだけだ。でも和馬の奴は筋肉の性能が全て上がり続ける。つまり筋力、瞬発力、柔軟性、持久力、全てがだ。しかもただ大きく膨らむんじゃなくて圧縮された高密度の、そして筋肉の質じたいが変わる方向性で成長する。実際、和馬よりもレグナスのほうがマッチョだろ?」


 礼奈達は『確かに』と納得する。


「あれはただ筋肉を大きくするっていう単純なものじゃなくて、良質の筋肉を作っているからだ。それもあいつの場合は少しの運動で成長ホルモンが分泌されるんじゃなくて、ホルモン異常で何もしなくても常に分泌され続けているんだ。そしてそれを抑えるミオスタチンがない。解るか? 全ての格闘家が成長ホルモンを分泌させる為に、毎日辛い修業に耐えているのに、和馬は本当に何もしなくても勝手に成長ホルモンが無限に分泌されて勝手に強く成り続けているんだ。それも全能力だが。おまけに筋肉の性能に合わせて骨や皮膚、運動神経や反射神経も年々上がり続けているらしい。だから本当に、神に選ばれた天才って奴だよ、超人だ、もっとも」


 羅刹の視線が、好美の隣に座る剛輝に映る。


「それでも、剛輝さんに勝てるとは思えないけどな」


 好美達の視線も、剛輝に集まった。


「まっ、それほどでもあるけどな。和馬が身体能力だけで最強なのは認めるけどよ、あいつには技も根性も無いからな」


 得意げに語る剛輝だが、前大会チャンピオンだけに説得力がある。


「でも羅刹。あいつがBブロック代表になったら、あんたとは準決勝で当たるわよ?」


「心配するなよ礼奈。準決勝だろうが決勝だろうが、優勝するにはどっかで必ず当たるんだ。それに和馬と戦うには、ファングに勝ってAブロック代表にならないとな」


 羅刹が振り返ると、VIP席エリアの後ろの方で、身長三メートルの大魔獣が主人であるイリスを首に乗せたまま四席を占有して座っている。


 魔人龍崎和馬に魔獣ファング。


 礼奈は固唾を吞んで、手に汗を握った。

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