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掴んで投げる掴んで投げる

「また同じ手を……? !?」


 速い。

 さっきの比では無い。

 掴まれたと認識した時、エリザの視界ははすでに一メートル以上上昇していた。


「これ……は?」


 掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる


「ッ」


 左カカトを武石の頭に落として、頭上を空ぶった。

 武石が投げるのが速過ぎて、間に合わなかったのだ。


「まさか、まさかぁああああ!?」


 光景は絶叫マシーンのソレ。

 観客席が一気に上へ引きのばすようにして流れる。

 右足を掴まれたまま、全身を硬い床に叩きつけられようとする。

 床が迫る。

 遠心力で体伸びる。

 エリザは反射的に今の自分にできる事を考えた。

 そして一〇年間サバットをやってきた彼女の体が反射で判断した答えは、


「はぁあああああああああ!」


 空ぶった足を前に突き出して着地。

 当然威力は殺し切れない。

 耐えきれず曲がる膝。

 まだ迫る床。

 両手を突きだす。

 左足と両手の三点着地を試みる。


 限界まで頭を上げて、両手の平をついて、それでも殺し切れなかった運動エネルギーで左腕が曲がって左肩を床に打つ。最後に左側頭部が床に激突。

 

 エリザは脳しんとうで視界が歪んだ。


 でも、武石からの追撃が無い。

 エリザは激しい頭痛と歪む視界に耐え、震える足で立ち上がる。


 左ひざが、今の一撃で完全に笑っている。

 振り向くと、武石は気絶していた。

 攻撃に全余力を使い果たし、意識を保つことすらできなかったのだろう。

 だが、何故そこまでしたのかエリザは理解に苦しんだ。


 そしてこれだ。


 エリザが視線を落とすと、武石の両手は未だ、万力のような力で彼女の右足首を掴んだまま。


 意識は保てないのに、握力は保っている。


「…………」


 エリザとて格闘家。


 勝つ為に死に物狂いで戦う、どうしても勝ちたい。そういう気持ちは理解しているつもりだ。


 でも格闘家は兵士ではない。

 武石にも生活があるだろう。


 武石はあくまで会社のコマーシャルファイター。


 良い成績を納めて、人気を得て、コマーシャルに出て生活費を稼ぐのが仕事だ。

 半身不随にでもなって選手生命を断たれたり、まして死んでしまっては元も子もないはずだ。


 なのに、なのに……

 エリザは武石の言葉を思い出す。



「逆に君に聞きたい。君は、死ぬ勝負はしないのか? 死ぬ勝負からは逃げるのか? 生きて帰れる保証がないと戦いに参加しないのか?」



 エリザはハタとして気付かされる。


「…………」

 

 失った言葉を探してから、エリザの瞳に敗北が映った。


「貴方は生活よりも、命よりも……武人としての矜持を貫くのですか……」


 一度目を閉じて、エリザは真摯な瞳を開けて、魂で屈した。


「先程の言葉を撤回しましょうムッシュー武石。貴方は狂人などではない。私は、貴方よりも偉大なシュヴァリエを知りません」


 エリザは優しく、武石の硬い手を、自身の手で包み込む。


「貴方の一日も早い回復と、NVT競技への復帰を願います」


 想いが届いたのか、武石の手が緩み、エリザから離れた。


『試合終了! 勝者は、エリザ・フレイ選手ぅ!』


 美しく戦乙女の勝利と、武石のスピリットに、誰もが惜しみない拍手を送った。

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