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トーナメントの不平等性

「ねぇ羅刹、この戦い卑怯じゃない?」

「何がだ?」


 VIP席で、礼奈は羅刹に訴える。


「だってシード選手ってようするに無傷なんでしょ? 一回戦でボロボロになった熊森選手が圧倒的に不利じゃない。戦うなら怪我が治ってから」

「それじゃ採算が取れないわ」


 礼奈の姉、華奈が羅刹よりも先に社長の顔で答える。


「NVTは間違いなく興行よ。観客を入れてチケット代やグッズ代を稼いで、テレビのスポンサー料も入って来るわ。でも防具無しルール無用が故に人気のNVTは骨折必死の過激な競技。けれど一回戦ごとに次は一ヶ月二カ月後ですなんてやっていたら大会が終わらない。このドームの使用料だけじゃなくて、観客にだって予定があるのよ。準備期間などを考えても、一週間で全ての競技を終わらせるのがベストなの。どしてもベストコンディションで戦いたかったら、それは競技者同士でプライベートな時間で勝手にやればいいわ」


「そんな……」

「華奈さんの言う通りだ」


 羅刹は少し冷たい声で言う。


「第一トーナメントっていう形式自体が平等じゃない。シード選手同士じゃなくても、一回戦でたまたま弱い奴に当たった選手は消耗せず二回戦を迎えられるし、一回戦から強豪と当たっちまった奴は消耗した状態で二回戦に挑まないといけない。シードかどうかに関係なく、トーナメントっていう試合形式じたいが不平等なんだ」

「…………それは」

「ちょいと御免よ」


 VIP席で、突然虎山剛輝が羅刹の隣、は礼奈と好美が占領しているので、好美の隣に座った。


「剛輝さん。社長の側にいなくていいんですか?」

「社長には断って来ているよ。それよりもだ羅刹。お前、武石がなんで柔道で金メダル取れたか解るか?」

「それは、柔道界最強だからですよね?」

「その通りだ。でもな、あいつは別に天才ってわけじゃねぇんだよ」

「え?」


 金メダリストの熊森武石が天才じゃない。その真意は、


「あいつがどうして強いか解るか? あいつよりも柔道の才能がある奴なら、いくらでもいるぜ。でもな、世界で一番柔道が好きな奴って言ったら、俺は言うぜ、間違いなく、熊森武石だってな!」


 虎山は、自分の試合の時以上に自信に溢れた顔でそう言った。


   ◆


「させない」


 武石が立ち上がる。

 武石のダメージを正確に理解していない観客からすれば、これがどれほどの事か理解できないだろう。


 首の骨は折れる寸前。

 頭蓋骨はヒビだらけ。

 そんな状態でも、なお武石は立ち上がる。



 掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる



「俺の事はなんて言われてもいい。どれだけ馬鹿にされてもいい。でもなぁ」



掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる



「柔道の事だけは、馬鹿にさせない!」

「ならば消えなさいムッシュー!」


 エリザの、女性特有のやわらかい筋肉から放たれる超高速の上段回し蹴りで、硬い皮靴の先端が襲い掛かる。



 掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる



 正確に武石の左こめかみを狙う殺人キックを、武石は素手で受け止めたら。

二〇年間、あらゆる敵を掴み続けた分厚い手の骨が軋み不完全骨折を起こした。

でも掴み取った。



 掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる掴んで投げる



 刹那の時で武石は背を向け、足をつかんで一本背負いの体勢に入る。


「また同じ手を……? !?」


 速い。

 さっきの比では無い。

 掴まれたと認識した時、エリザの視界ははすでに一メートル以上上昇していた。


「これ……は?」

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