最強VS最強
「あんたさぁ、ちょっとやんちゃ過ぎない?」
会場の空気を切り裂いたのは、桐生朝守成だった。
本日の勝利者であるはずの彼女がリングに降り立ち、和馬に歩み寄る。
「あんたさ、こいつらが自分より弱いの知っててこんな事しているでしょ? 性格悪くない?」
「なんだ? お前もやるか?」
和馬と朝守成との間の空間が、二人の闘気で満たされる。
間に人が立てば、気当たりだけで死ねるだろう。
だから割って入ったのは人ではなかった。
衝撃音を鳴らして間に着地したのは、社長令嬢のイリスを背負ったファングだった。
身長三メートル、体重六〇〇キロの魔獣だ。
「■■■■■■‼‼」
魔獣が朝守成に吼えた。イリスが、いつもの子供っぽい雰囲気はどこへやら、女帝のような視線で朝守成を見下ろす。
「下がりなさい。これ以上この男が無駄に消耗することは、あたしのファングの勝利を汚すだけよ」
「何あんた、あたしがそいつに負けるって言いたいの?」
「おいおい、誰の勝利が汚れるって?」
魔獣ファング、魔人和馬、鬼龍朝守成。
三体の怪物が睨み合うと、一切の殺気の無い女性が現れた。
他人に気配を感じさせず、その少女、合気道家三島陽子がいつのまにか和馬の右手と、朝守成の左手を握る。
「おすわりですよ」
和馬と朝守成の腰が落ちかける。
だがそれまで、完全には落ちず、二人は耐えた。
でも耐え続けるだけで、そこから陽子を攻撃しようとすぐに行動できない。
「イリスちゃん。私達は二回戦以降で当たるのだから、今ここで騒ぎを起こすことはないんじゃないかな?」
「…………」
巫女と女帝の会談は、一瞬で終わる。
「それもそうね。いいわ。ファング」
その一言で、ファングはリングからVIP席へと歩みを進めた。
「じゃあ二人も、一緒に戻りましょう」
陽子にほほ笑みかけられて、和馬と朝守成は陽子の手を振りほどいて席へ戻った。
◆
閉会式も終わり、皆が席から立つ中、羅刹は好美に問う。
「好美、どうしてだ?」
見れば、好美の手は、羅刹の手をぎゅっと握ったままだ。
「ああごめん離すの忘れていたよ。いや、たださっきの騒ぎにせっちゃんが首をつっこまないようにだよ」
「首をつっこむ気なんてさらさらないよ。だって今、問題を起こして失格になったら」
羅刹の視線が、礼奈へと向いた。
「こいつらの会社を立て直せないからな」
その一言で、礼奈は一瞬、感極まったように奥歯を噛んだ。
決して流されやすいわけではない。
ただ、羅刹が本気で自分の会社の事を考えてくれている。その事実に安心したのだ。
「そ、その通りよ羅刹。あんたはこの大会で優勝して、旗大路フーズを復活させるのが仕事なんだからね!」
「わかっているよ、じゃ、俺らも帰ろうぜ」
NVT世界大会。まずはその、激動の一日目が終了した。
あさって行われる二回戦は、今日を生き残った超人達だけの祭典となる。
「でもさぁせっちゃん。あの和馬って言う人、全然技術使ってる感じじゃないけど、あの体格であの身体性能おかしくない?」
好美が首を傾げると、羅刹は溜息をつく。
「あー、あいつはさ」
羅刹の目が、VIP席から立ち上がる、和馬に向いた。
「生きてるだけで最強になれる特異体質だから」




