小さな巨人ＶＳ超人類
『それではＤブロック第二試合はまたもボクサー登場！ 体格イコール強さと誰が決めた！ 今大会最小最軽量！ ミニマム級ボクシング世界チャンピオン！ 日本企業！ クリフトン代表！ 身長一五一センチ！ 体重四七キロ！ 小さな巨人！ 岩波伸二選手の入場でーす！』
身長と体重を聞いて、羅刹の隣に座る華奈、礼奈、好美の女性陣は驚く。
身長一五一センチで体重四七キロ。女の子並どころか、女の子でもなお華奢な部類に入るだろう。
入場してきたボクシングシューズにパンツ、グローブをはめた男性は、好美や礼奈よりも小柄で、ボディラインも細い少年のような男性だ。
しかしその顔は勇ましく瞳は熱く燃えている。
腹筋は六つに割れ、手足は細さに反して筋肉の彫りが深く繊維の筋がはっきりと見て取れる。
背中も、厚みこそないが、酷使に酷使を重ねた筋肉独特の熱が空気越しに観客へ伝わって行く。
その一見すると矛盾した肉体が、彼がどれほど自分をいじめ抜いて来たかを物語る。
『対するは元祖バーリトゥードの現役チャンピオン！ ネクストバーリトゥードを制覇するのも当然この俺！ アメリカ企業！ フィードモーター代表！ 身長二一一センチ！ 体重一三二キロ！ 超人類！ アトラス・ゴードン選手ぅ！』
レスリングパンツ姿の男が登場。
先程の巨人ボクサーマイクも大きかったが、アトラスを見て、誰もが『デカイ！』と目を見開いた。
単純なサイズならファングの方が圧倒的だが、何せ比較対象になる相手が身長一五一センチの伸二だ。
大人と子供、むしろ、大人と幼児ぐらいの差を感じる。
「おいおいオレの相手がこんなチビ助かよ！ おいガキ、頼むから一分はもってくれよ、でないと試合が盛り上あがらねぇ」
伸二は力強い眼光でアトラスを睨み返す。
「デカイ奴はどうしてこう、どいつもこいつもお喋りなんだろうな？ 喋らないと不安なのか？」
「チッ！ 雑魚が！」
アトラスは憎らしげに吐き捨て、ファイティングポーズを取る。
アトラスは思った。
――ミニマム級ボクサー……軽いフットワークでオレをかきままわして一瞬の隙をついてオレのアゴへ最速の左ジャブ。そんなところか……こんなファッキンジャップ。五秒ですり潰してやる！ てめぇはせいぜいオレ様の引き立て役になりな！
『それでは試合、始めぇ！』
――さぁ、楽しい殺戮ショーの始ま――
◆
岩波伸二の右ストレートが、アトラスの顔面をぶっ飛ばした。
アトラスの巨体が真後ろへとへし折れる。
それでも伸二は止まらない。
左ストレートでストマックを殴り逆エビ反りになったアトラスの背骨を矯正。
有り得ない神速のパンチラッシュでアトラスの腹を胸を、肩を顔面を叩き潰しながら前身し続ける。
アトラスの足は転ぶ時バランスを取るようにしてバックを続ける。
明らかに逃げている。
このまま壁まで追い詰められるか。観客達がそう思った瞬間。
「ＦＵＣＫ‼」
アトラスの右ストレートが襲い掛かる。
伸二に殴られながら、体格と体重差からくるパワーで無理矢理パンチをねじ込む。
伸二は最軽量階級であるミニマム級ボクサー最大の武器である身軽なフットワークでかわす……などと女々しいことはせず、アトラスの巨拳に自身の額を叩きつけた。
巨拳と頭突きが相殺。
アトラスの顔が驚愕で固まる。
伸二は固まらず、激しい頭痛を無視して再び猛ラッシュ。
伸二の魂はバックギアがないというよりも、常時ＯＮのアクセルしかついていない。
パンチの一発一発全てに四七キロの体重を乗せられるだけ乗せて殴る。
殴りながら前に出る。
アトラスの前蹴りがみぞおちに食い込む。
耐える。
だが体重差で吹っ飛ばされた。
「ッッ！」
伸二は背中を床に打ちつけると同時に跳ね起きてすぐに距離を詰める。
流石は体重一三二キロから繰り出した前蹴り。
伸二の薄い腹筋では防ぎ切れず、喉の奥から血の味がせり上がって来る。
だが止まらない。
でも止まらない。
しかし止まらない。
身長差六〇センチ、自分の三倍近い体重を持つ相手に、伸二は真っ向から殴り合う。
額から流れる血で顔が真っ赤に染まる。
血に濡れながら鬼の眼光でアトラスを睨む伸二。
アトラスも、この小柄な日本人がただものではないことを悟る。
伸二の肩をつかんで持ち上げ、アトラスは床にうつぶせに叩きつけた。
アトラスはその小さな背中に腰を下ろして、伸二の首を後ろから両手で裸締めにする。
「おいテメェ、ボクサーなのになんでガードもフットワークも使わねぇんだよ？」
「はんっ、てめぇにそんだけの価値があったらガードもフットワークも使ってやるよ！」
「そんな強がり、いっ！？」
