アクションファイターVSアイアンフィスト
『それではこれより最終ブロック、Dブロック第一試合を始めます! 究極の映画マニアが登場! 彼はこの舞台で主人公になれるか! アメリカ企業! ジョンドエンド代表! 身長一八三センチ! 体重七七キロ! アクションファイター! ジャック・ローン選手ぅ!』
カンフーパンツをはいた上半身裸の白人男性が登場。
「ホアチャー!」
と言いながら虚空に向かってパンチを放つ。
『続きまして、アメリカが誇る最強の鉄拳を持つ男。ボクシングヘビー級王者こそが世界最強だということを証明する為にやってきた! アメリカ企業! エクソン・モーデル代表! 身長二〇九センチ! 体重一五五キロ! アイアンフィスト! マイク・ロビンソン選手ぅ!』
短い金髪碧眼の長身男性が入場。全身を分厚い筋肉が覆い、ヘビー級ボクサーの中でも最上級の体格だろう。
明らかに体格で負けるジャック。
彼は自信たっぷりに笑う。
「私はこういうのを夢見ていたよ……一見細身の男が、巨漢を退治する。それでこそ私の目指したヒーローの姿だ!」
マイクはそれ以上の自信で顔を歪める。
「夢見てるんじゃねぇよ映画オタク野郎、俺がノンフィクションを見せてやるよ」
『それでは二人ともよろしいですね? 試合、始めぇ!』
「ホアターッ!」
ジャックの飛び蹴りが炸裂。
マイクはギリギリでかわし、難を逃れる。
ジャック・ローン。彼は子供の頃から映画が大好きだったが、その中でも特に好きなのが格闘映画だった。
CGや特殊効果じゃない、本当に役者が戦うそれはジャック少年にとって、もっとも身近でリアルなヒーロー。
そんな中、彼はとある有名なアクションスターにハマっていた。
そしてそのスターが元になって生まれた格闘技、ジークンドーを習うのに、時間はかからなかった。
ジャックは決して武術の才能があるわけではない。
ジムのコーチも、ジャックには期待していなかった。
だが……彼は才能は半分でも情熱は一〇〇倍の少年だった。
イメージ力。
同じ筋トレとメニューとプロテインでも、トレーニング中にムキムキになる自分をイメージしながらだと効果が高くなる。
ジャックはオタクだった。誰よりも早く起きて、誰よりも遅くまで起きて、アクションスターのように悪をやっつける自分を想像しながらトレーニングした。
ご飯を食べる時も、シャワーに入る時も、寝る時も、常に彼の頭の中にはカッコよく悪を倒す自分の姿があった。
ジムの仲間はおろかジークンドーのコーチさえもあきれ果てる彼のオタクパワー。
全細胞が才能の壁に反逆して、全身を改造し続けた。
そして彼はジークンドーの全米チャンピオン、果てはNVTのスター選手に上り詰めた。
彼のリスペクトスピリットが、神が定めた運命を凌駕したのだ。
「アチョー!」
ジャックの猛攻が始まる。
パンチ、肘、チョップ、キック、膝。
マイクは基本的なボクサーガードで防ぐばかりで防戦一方だ。しかし、
「所詮は浮気野郎だな」
ガードの下で、マイクが笑う。
「?」
ジャックは攻撃の手を休めずに、怪訝な顔をする。
「浮気なんてしたことはない。私はいつだって世界一のファンだ!」
いろんな映画は見たし、好きな映画俳優は何人かいる。けれど、ジャックが真に尊敬するアクションスターはただ一人だ。
ジャックが急接近、ショートパンチがマイクのガードをかいくぐり、腹筋に迫った。
「ハッ!」
ジャックの拳が炸裂。マイクの巨体が、後ろに大きく後ずさった。
今大会では比較的細身選手のジャックの偉業に、観客は歓声を上げる。
「ワンインチパンチ。これは私の必殺技、いわゆる寸頸という奴だよ」
寸頸、英語でワンインチパンチ。
腕力だけでなく、全身の力が拳に乗せることができれば、肩から先の力など微々たるもの。
加速する距離などなくても、つま先から膝、股関節、背中、肩までの全関節を同時駆動させる事で、相手から一インチ、役二・五四センチしか離れていない拳を千分の一秒でマックススピードまで加速させて相手に叩き込む。
これがジャックが持つ必殺拳だ。
「いくぞ、トドメだ!」
ジャックが大きくジャンプして、左足を引くのに反比例させて右足をマイクの顔面目がけて突きだした。
世界最高精度の飛び蹴り……を最小限のフットワークでかわすマイク。
「な!?」
マイクの右ストレートが、空中のジャックのアゴを直撃。
ジャックの脳味噌は揺さぶられて、ジャックは脳しんとうを起こして気絶。
床にべしゃりと、受け身も取れずだらしなく落ちた。
マイクは大きく歯をむき出して笑い、ジャックを見下す。
「肘にチョップにキックに肘に浮気した報いだな。男なら拳一本一途ならなきゃ不誠実ってもんだぜ」
『勝者、マイク・ロビンソン選手ぅ!』
湧きあがる歓声の中、マイクは両拳をたかだかと掲げて高らかに宣言する。
「優勝するのはオレだぁあああああああああああああああああああああ‼」




