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着ぐるみの中の人

 コスプレ集団が選手入場口から退場して、リングには朝守成とスタボー、コスプレイヤーと着ぐるみとバニーガールだけになる。


 今、ネットの実況スレでは『なんだ異空間は?』というコメントで盛り上がっている。


『それではラノベキャラVSマスコットキャラ♪ おっとすいません、もとい女子高生VS宇宙戦士の試合をこれより始めます。では両者構えて』


 美少女と、着ぐるみが弾ける笑顔で睨み合う。


『試合、始めぇ♪』


 朝守成が消えた。と、同時にスタボーが真上に弾け飛んだ。


 五メートル、六メートル、まだ上がる。


 スタボーが天高く舞い上がってから、観客は朝守成が距離を詰め、スタボーを蹴り上げた事に気付く。


 観客がまばたきする間に、既に朝守成は跳躍して、スタボーの真上にいた。


「落ちなさい!」


 振り下ろしたカカトが、スタボーをメテオのように床へ叩き込む。


 上空数メートルから落下する朝守成はミニスカートが真上にめくれ上がって、スパッツを観客に披露しながら倒れるスタボーにストンピングキックをお見舞いしようとして、スタボーがコンマ一秒早く跳び起きて回避する。


 朝守成の足がリングの床に蜘蛛の巣状のヒビを入れながらメリ込んだ。

それもつかの間、また観客が瞬きし終わる頃には、もうスタボーを追い詰めている。


 朝守成は止まらない。


 突きが、蹴りが、上段中段下段にフックに回り蹴り。


 一撃一撃全てが必殺の威力をもった攻撃が嵐のようにスタボーを粉微塵にしていった。


   ◆


 その様子を、VIP席から、全大会の優勝者、空手の達人虎山剛輝と今年一二〇歳の森岡五兵衛が見ていた。


「相変わらずとんでもねぇガキだな」

「あの細くぷにぷにの手足で出せる出力を明らかに超えているな、おまけにあんな重そうな胸と尻をつけてよく動くものだ」


 一二〇歳の五兵衛は愉快そうに笑った。


「あのガキ、朝守成の奴は常に戦闘に必要な全関節を同時に稼働している上に、敵に当たった瞬間は全関節を固めてやがる。テクニックだけで超神速の攻撃に全体重を乗せた肉弾爆撃。それをあいつは一切の練習無く生まれつき持っているから驚きだ。俺ら武術家が人生をかけて磨いてようやく身につける技術を、呼吸や歩行と同レベルで使うんだからたまらねぇな」


 五兵衛は、朝守成を見下ろしながら溜息をつく。


「まったく……一二〇年生きて来たが、あれほどの才を持った者は見たことが無い……あやつの血筋を除いて……な」


 五兵衛の口角が、僅かに上がった。


   ◆


 朝守成の攻撃がヒットするごとに、まるで豆腐のようにして着ぐるみが抉り取られ、ちびっこ達にはお見せできない状態になる。


 布とウレタンを飛び散らせながら、着ぐるみの残骸へ、朝守成が渾身の右ストレートを胸に、ちょうど☆のど真ん中に叩き込んだ。


 体重一〇〇キロのスタボーが、水平にぶっ飛ぶ。


 まるでギャグ漫画のように。



 ヒロインがお馬鹿な主人公を殴り飛ばした時のような勢いだ。


 壁に激突すると同時に、着ぐるみが四散。


 中から人影が飛び出した。


「え!?」


 その姿に、朝守成は度肝を抜かれて、試合開始から初めて止まった。

むしろ固まった。


 朝守成の三メートル先に着地したのは、やや細身のボディビルダーを彷彿とさせる筋肉を持った、かなりコワモテの白人男性だった。


「ドリームタイムは終わりだ。これからはヘルタイムだぜ」

「あんた何してんのよ馬鹿ぁああああああああああああああ!」


 朝守成が力の限り叫んだ。


「着ぐるみ壊れたらさっさとギブアップしなさいよね! 子供たちの夢が」


 観客席のちびっこ達は、


「あ、マッスルボーイだ!」

「スタボーの仲間のマッスルボーイだ!」

「スタボーが再生するまで負けないで!」


 朝守成が無表情になって、絶対零度の瞳でスタボーだったモノを見る。


「ねぇスタボー、あんた……あれ」


 スタボーだったモノは野太い声で言う。


「何を言っている。我はスタボーに非ず。我が盟友スタボーは今、コズミックパワーで再生中だ。我はスタボーの仲間のマッスルボーイ。スタボーがコズミックパワーで再生するまでの間だけ現れ、スタボーが再生したらどこかへ消える特別な宇宙戦士なのだ」


 朝守成は両肩を落として、への字口になる。


「そういう設定なんだ……あんたも大変ね……ん? 待って、じゃあさ」


 朝守成の頭上に電球が光って、バニーガールんお姉さんに向き直る。


「ねぇねぇレフェリー。あたしの試合相手ってスタボーなんでしょ? じゃあさ、スタボーはもう負けたんだからあたしの勝ちじゃない?」


『あ…………』


 バニーガールのお姉さんが口を開けたまま固まると、マッスルボーイがびくりと体を震わせた。


「ち、違う! 我とスタボーは一心同体! 二人一緒に生まれた我らは目には見えないコズミックパワーで繋がっていて片方が死ぬともう片方も死ぬ運命共同体で」

「死んでるじゃない」


 スタボーの残骸を指差す朝守成。


「違うのだ! あれはコズミックパワーが一時的に失われた事でスリープモードになっているだけなのだ!」

「ふぅうううううううん」


 ジトーっとジト目でマッスルボーイを眺める朝守成。


 マッスルボーイはコワモテフェイスを保ったまま、いっぱいいっぱいで額から汗を流した。


 バニーガールのお姉さんが朝守成に歩み寄り、二人で喋る。


「ほらほら朝守成ちゃん、あんまりいじわるしないで」

「だって中身があれよ、あのきもいマッチョ野郎が世界中の子供達を騙しているのよ? ていうか一緒に生まれたってあいつら全然見た目違うしそんな強引な設定、ここはひとつ天誅をさぁ」

「気持ちはわかるけど、大会進行とかスポンサーとか大人の事情が色々あるからお願い♪」

「もう、しょうがないなぁ」

「ありがとう、朝守成ちゃん♪」


 お姉さんが離れると、朝守成はマッスルボーイを見下した眼で、


「じゃああたしが特別に温情をかけて選手交代を認めてあげるわ。感謝しなさいよスタボーの中の人!」

「中の人ではない! スタボーの盟友マッスルボーイだ!」

「ならあたしも!」


 朝守成はコスプレ衣装を脱ぎ捨てる。コスプレ衣装の下からは、彼女が通う高校指定の制服が出てきた。


 ファンからは現役女子高生が戦うというのが受けている為、コスプレ以外の時はあえてこの姿で戦う事にしている。


「じゃあいくわよ!」

「ヘルタイムを見せてやろう!」

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