表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/98

護身の極地VS不動山脈

『さて! 熊森武石選手の名勝負の興奮も冷めない中、Bブロック第三試合が始まります! 選手! 入場でーす!』


 選手入場口から、まるでお坊さんのような格好をした男性が姿を現す。

 割と整った顔立ちの、好青年といった感じだ。

 けれど表情は真剣で、観客には目もくれず、ただまっすぐに歩く。


『武とは破壊する事に非ず、身を守る術。ならば我こそがキングオブファイター。究極の護身を見せつける! 日本企業! トヨキタ自動車! 身長一六五センチ! 体重五八キロ! 護身の極地! 国文大治ぅ!』


 そして、続いて登場した、モンゴル相撲の衣装に身を包んだ選手に観客は目を奪われた。


『対するは、モンゴル相撲最強の男! 最強の戦闘民族モンゴル戦士がリングに登場! 

モンゴル企業! ジンギスハーン! 身長一九九センチ! 体重一六五キロ! 不動山脈! ボルドーバートル選手ぅ!』


 何故か右手に大きな車のタイヤを持ったその男は、腕と足が同じサイズだった。


 むろん、腕が足と同じサイズなのだ。


 巨漢選手に見合った極太の両足。


 だが、腕はまるでさらなる大巨人の腕を移植したように、歪なサイズだった。


 筋力トレーニングによる筋肉肥大ではない。


 骨、腕の骨格そのものが明らかに太く、長く、全体的に巨大だ。


   ◆


 VIP席で、羅刹が目を光らせる。


「へぇ、生まれつき腕だけデカイんだなあいつ、あの骨格なら、すごい腕力だろうな」


 隣の席で、旗大路礼奈が目をパチクリさせた。


「骨? 注目するのは筋肉じゃないの?」

「そうなんだけどな、でも筋肉が強過ぎると骨が折れるから、筋肉の最大性能は骨で決まるんだ。いい骨格の奴ほど、パワフルな筋肉を搭載できる。恵まれた天性骨格は、それだけで宝物だ、俺はそんなに恵まれなかったな」

「いや、それだけ強かったら十分じゃない……」


 礼奈は、羅刹の戦いぶりを思い出して口角をひくつかせた。


   ◆


「お前は日本の選手だな」


 金属のように無機質な顔で、ボルドーは大治に尋ねる。


「はい、そうですよ」

「ふん、いかにも恵まれた甘ったれの顔だな」


 そう言って、ボルドーは右手に持ったタイヤを持ちあげて、左手で反対側をつかみ、左右に引いた。


「ハァッ!」


 まるで紙きれのように、タイヤは一息で引き裂かれた。

 サイズから考えておそらくはトラック用。

 それが、いともたやすく腕力だけで千切れてしまう。


「本来は、車をまるごと壊して見せたかったのだが、会場に入らなくてな。こんな話を聞いたことがあるか? 強くなるには足を腕並に器用にするか、腕を足並みに強くすればいい。悪いな、私は器用な腕が足よりも強い」


 自慢げに語るボルドー。

 大治は少しも驚かず、眉ひとつ動かさすに、むしろ困惑した顔で頬をかいた。


「え、えーっとさボルドーさん? これってさ、NVTってタイヤを千切ったり車を壊す競技だっけ?」


「何?」


「僕らは格闘技の試合をしに来たんだよね? じゃあ、無抵抗の無傷物を一方的に壊して見せられても、ちょっと……困るんだけどなぁ、なんて」


 ボルドーの額に、青筋が浮かんだ。


「いいだろう……ならば、私が貴様ら温室育ちに本物の闘争というものを教えてやろう」


 長大な腕を前に構えて、ボルドーはバニーガールへ試合開始を促す。


「女、早く私にこの戦士モドキを殺させろ」


 巨人ボルドーの迫力に、バニーガールのお姉さんは圧倒されてしまう。


『は、はい! では、試合始めぇ!』

「ぬぅうううううん!」


 ボルドーの張り手が、大治をすり抜け床を穿った。

 一撃で床に蜘蛛の巣状のヒビが入って、観客が驚嘆する。

 二歩三歩と距離を取る大治を、ボルドーは睨む。


「こそこそ逃げ回るのがお前のやり方か?」

「逃げるが勝ち、三十六計逃げるにしかず、逃げれば戦う必要もないから、そうですね、逃げるのが最強の護身かもしれませんね」

「ふざけるな!」


 ボルドーが長大な腕を使ったパンチを何度も放つ。

 大治はその全ては避け、受け流し、弾いていく。

 そして防ぐ度に、ボルドーの脇腹へ鋭い突きや蹴りをお見舞いする。

 脇腹。筋肉が付きにくく、アバラも脆い、人体の急所だ。


「っ、ちょこまかと!」


 とりわけ大ぶりな一撃がパンチが来た瞬間、大治はボルドーの拳をかわしながらつかんで、全身で巻き込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ