なにがどうしてこうなった!?
「あれ? 大原さん?」
羅刹達が席に着くと、すぐ横を一人の青年が横切る。
羅刹は思わず声をかけてしまった。
「羅刹君、それに好美ちゃんも久しぶりだね」
立ち止ったのは、山洋堂代表選手、大原隆雄選手だった。
年齢は二二歳。
整った顔立ちの好青年で、羅刹に気付くと笑顔で挨拶をする。
「えーっと、こちらのお譲さん達は」
「旗大路フーズ社長。旗大路華奈ですわ。こちらは妹の礼奈です」
「あ、旗大路フーズの、始めまして。山洋堂の代表選手大原隆雄です。同じ古武術家同士、羅刹君とはお父さんの時から交流があるんです。羅刹君、最近お父さん見ないけど、どうしたんだい?」
「あの人は道場潰れてどっかに消えましたよ」
「えっっっっ!!? ちょっと待って何それ! 僕何も聞いてないんだけど!?」
格闘家とは思えないほど驚き動揺する隆雄。
実際礼奈は、
――この人、本当に選手なのかなぁ……。
っとジト目で思っている。
「父さんが試合すっぽかして解雇されて道場も信頼失って潰れて一家離散で父さん失踪、俺ホームレス。餓死寸前のところを礼奈と華奈さんに拾われた」
「ちょっと羅刹君! 情報量が多すぎるよ! 僕のキャパシティ超えているよ!」
「ホームレス中は公園の葉っぱと段ボールが主食でアリがご馳走。だから今は旗大路フーズの食品食べ放題で俺天国」
「これ以上ブチ込まないでよ!」
頭を抱えて叫ぶ隆雄。
その時、遠くから隆雄の名を呼ぶ声がした。
「あ、社長だ。じゃあ僕はもう行くよ。羅刹君も頑張ってね。じゃ」
言って、隆雄はぱたぱたと走って行ってしまう。
「おもしろいですね」
「ねぇ羅刹。あんたあいつの知り合いなんでしょ? どんな奴なの? あんたより強い?」
礼奈に聞かれて、羅刹は唸ってしまう。
「う~ん。そうですね……本人には言えないというよりも、本人も自覚していると思うんですけど…………隆雄さんは、もったいない格闘家です」
「もったいない?」
「はい」
羅刹は声のトーンを落として言った。
「稲峰流古武術なんてしなければ、もっと強いのに……」
その声は、本当に残念そうだった。




