マイナー武術
「躰道だな」
「たいどう?」
羅刹の隣で、好美が頭上に疑問符を浮かべる。
「空手から派生した武術で、戦闘機のパイロットが戦時中の空中戦からヒントを得て生まれたらしい。見ての通り跳んで跳ねて回って華麗な空中殺法が特徴だ。最後の技は転体バク宙突きって奴だ。でも、まさかあの年であれだけの動きができるなんて驚きだぜ」
「あの人九〇歳だっけ? もしかしてあの人が創始者?」
「いや、名前が違うから、創始者の同僚じゃないか? それはそうとして」
隣では、礼奈がまた騒いでいる。
「いやぁっ! あんな空飛ぶじじいまでいるなんて何よこの万国ビックリ人間ショーはぁあああああ!」
「おい礼奈」
羅刹は、礼奈の頭をむんずとつかむと、やや強引に自分のほうを向かせた。
「だったら見せてやるよ。俺主催のウルトラデンジャラスビックリ人間ショーをな」
礼奈は涙を止めて、ちょっと驚いた顔で羅刹を見つめる。
「好美は解説お願いな」
「任せて♪」
「じゃ、次は俺の出番だから」
それだけ言って、羅刹はVIP席から立ち去った。
◆
「虎山さん?」
羅刹は控室で服を脱ぎ、赤いアンダースパッツに黒のラインが入った白いファイトショーツ姿になった。
そして会場へ向かい廊下で会ったのは、前回の世界大会優勝者、虎山剛輝三〇歳だった。
空手家らしい、広い肩幅に太い腕は、空手着姿でもすぐにわかる。
動きやすい短髪に勇ましい顔つき。
彼こそが今、日本空手最強と言われている人であり、オリンピックで三度金メダルを取っている天才だ。
「おう、お前が天城のガキか?」
「俺の親父を知っているんですか?」
「まっ、同じNVTの選手だしな。っで、あいつは?」
「道場が潰れた後どっかに消えましたよ。いつものように」
羅刹が苦笑すると、剛輝は頭をぽりぽりとかいた。
「しょうがねぇやろうだなぁ」
言って、剛輝の拳が放たれ羅刹は一センチ首を引いた。
羅刹の足の甲が、剛輝の金的一センチ下で止まっている。
「いーい、反応だ。お前、あいつより強いんじゃないか?」
「それはないでしょ? じゃ、俺試合なんで」
羅刹が横を通り過ぎると、背中越しに剛輝が、
「いい面構えだ。勝てるぜお前」
「勝てるじゃないでしょ虎山さん。勝つんですよ」
チャンピオン相手に臆することなく、羅刹は歯を見せて笑いながら戦場へ向かう。




