大空の侍VSワンマンアーミー
「いやぁああ! 本戦どんだけレベル高いのよ無理よ終わりよ!」
礼奈が華奈の胸で盛大に絶望している。
ホッキョクグマを常食する魔獣に、格闘ゴリラを瞬殺する戦闘部族。
運営も最初にインパクトのある試合を持って来たものだな、と華奈は感心しながら妹の礼奈の頭をなであやした。
錯乱しているお嬢様の頭を、羅刹もぽんぽんとたたきながら落ち着かせようとする。
「ほらほら、次の試合始まっちまうぞ。お前ももうNVT関係者なんだからちゃんと見ろよ。この試合の勝者が俺の三回戦の相手になるんだから」
「いやぁああ、これ以上見たくないぃいいいい!」
泣き叫ぶ礼奈とは関係無く、試合は続く。
『それでは第三試合! 両選手入場です! 今度は軍人対決! 世界最強軍隊アメリカ・グリーンベレー出身! 軍隊格闘技は米軍最強兵士のマーシャルアーツが今日も戦場に炸裂する! アメリカ企業! リンテル社代表! 身長一八四センチ! 体重八一キロ! ワンマンアーミー! サンダー・マッカネル選手!』
入場口から金髪碧眼で、迷彩服を着た男性が入場する。
なかなかの美系で、観客に向かって甘いマスクでほほ笑む。
『対するは元日本軍所属! 零戦パイロットの撃墜記録はどこまで続くんだ! 大空の侍が登場! 日本企業! ノワンゴスマイル動画代表! 身長一七一センチ! 体重六二キロ! そしてなんと年齢九〇歳! 撃墜王! 高嶺弘樹選手!』
入場したのは黒くて細い袴に、空手着のようなものを着た老人だった。
ハゲてはいないが、頭の髪はすっかり白くなっていて、顔に刻まれたシワも多い。
「やれやれ、毎度この大会がしんどいぜ」
息を吐きながら、弘樹はマッカネルの前に立つ。
『米軍VS日本軍! とはいえ九〇歳の老人に脂の乗った二九歳はキツイかぁ?』
バニーガールが解説する中、サンダー・マッカネルが失笑を漏らす。
「おいおい爺さんここは老人ホームじゃないんだぜ? あいにく俺に敬老精神は期待しないでくれよ。俺は軍人だ。会社の優勝という任務は忠実に守らせて貰う」
「阿呆か。俺はてめぇが生まれる前に還暦迎えた人生の先輩だぞ。ガキは黙ってかかってこいよ!」
挑発的に悪態をつく弘樹。
マッカネルはバカにしたように口をすぼめた。
「七〇年前に死にそこなった爺さんが言うねぇ。実は俺のじいちゃんは戦闘機のパイロットでね。あんたなら知っているだろ。グラマンを」
弘樹は無反応だが、マッカネルは続ける。
「ゼロ戦が世界最強だったのは最初だけ、戦争末期はさらなる高性能機を次々出されておまけに物資不足で質の悪い燃料使って人間爆弾扱いだったんだってな。俺の爺ちゃんは何機ものゼロ戦を撃ち落としたゼロ戦狩りで有名でね」
マッカネルが邪悪に笑う。
「俺の爺さんが仕留め損ねた亡霊に、俺がトドメを刺してやるよ、時代遅れのサムライ野郎」
それでもなお弘樹、元日本帝国海軍高嶺弘樹曹長は眉ひとつ動かさない。
「チッ、爺さんボケてんのかよ?」
マッカネルが舌を鳴らすと、バニーガールがコールをする。
『それでは、両者構えて! 試合、始めぇ!』
「一〇秒でケリつけてやるよジャップ! ?」
マッカネルの目の前で、突然弘樹が側転をして迫った。
体操選手のような動きに一瞬驚いて、まばたきをする間に弘樹の姿が消失。
同時に左わき腹に衝撃と激痛が走った。
見れば、床に寝転がった弘樹が、右足を伸ばして蹴っていた。
「これが変体卍蹴りが、で」
弘樹の体が横に回転。その際、マッカネルの足を巻き込んで、マッカネルは前に倒されてしまう。
当然ただ倒されたりはしない。
両手で受け身を取り、顔面を床に叩きつけることを回避。
だが既に弘樹はマッカネルをまたぐようにして立っていて、後頭部の下、ぼんのくぼに中指一本拳を下ろした。
「がぁあっ!」
マッカネルは床に顔面を叩きつける。
弘樹はすぐに離れる。
立ち上がるマッカネルを見て笑った。
「おうおう、今の捻体足がらみで立ち上がるか、外人さんは頑丈だねぇ」
「この、イエローモンキーが、ブッコロス!」
猛然と踏み込んで来るマッカネル。その姿勢が低く、タックルでも狙っているのかと判断すると、弘樹は飛んだ。
マッカネルの射程に入る直前に飛んだ為、またマッカネルからは視界から突然消えたように見えた。
弘樹は大戦の頃を思い出す。
空を飛び、操縦かんを握りながら戦闘中はいつもやっていた。
相手の上を取る。
相手の背後に回り込む。
飛んで回り込んで、そして撃つ。
マッカネルはバック転しながらマッカネルの後頭部を蹴り飛ばして、さらに落下のエネルギーをそのまま拳に乗せてまた中指一本拳をぼんのくぼに落とした。
「あがっ……」
マッカネルの上半身が、積み木の城のように崩れてから、下半身も床に落ちた。
弘樹はゴングが鳴る前に床にあぐらをかいて一言。
「あ~しんど。年々体がキツくなるぜぇ~」
マッカネルが動かないのを確認して、バニーガールが手を上げる。
『試合終了! 勝者、高嶺弘樹選手!』
「おい姉ちゃん」
『あ、はいなんでしょう?』
弘樹は立ち上がると、バニーガールに声をかけた。
「あんたの格好露出多すぎて危ないから次から着物とか着ろよ。たぶん似合うぜ」
『え、あ、いやこの格好は』
「姉ちゃんハト胸だけどサラシ使えば着物で体のライン隠せるぞ。まぁ一度考えてみろや」
言うだけ言って退場する弘樹。
バニーガールのお姉さんは呆気に取られてしまう。




