捕食者VS食物連鎖の頂点
ボルバが不敵に笑う。
「ゴリラか……私が今まで、何頭のゴリラを素手で殺してきたか君は知っているかな?」
コンボイはボルバ相手に鼻で笑う。
『互いに素手でライオンやサイを殺す者同士! 捕食者VS食物連鎖の頂点! このドリームバトルは誰にも勝敗が解りません! それでは両者、構えてください!』
ボルバは両手を開いた状態で構え、
コンボイはゴリラの基本フォーム、ナックルウォーキングスタイルで待った。
VIP席では華奈が、
「羅刹君、貴方はこの試合、どう見ます?」
「そうですね、身長は二人とも二メートル同士、でも体重はコンボイのほうが七〇キロも重たい。パワーファイター同士の戦いなら、ゴリラのコンボイの圧勝だと思いますよ?」
「じゃあ」
「でも、問題はあの二人が本当にパワーファイターなのかって事ですね」
「ふぅん」
『それでは、試合、始めぇ!』
「ヴォフッ」
コンボイが仕掛けた。
人間など及びもつかない筋骨からハンマーフック、ではなく正拳突きを放った。
ボルバは受け流そうとして、だが受け流し切れずに後方へ自ら跳んで衝撃を逃がした。
羅刹は口笛を吹いた。
「あのゴリラ。格闘技を仕込まれてやがる」
「やるなゴリラ」
「グォフフ」
コンボイは人間のように笑い、でもすぐに真剣な眼差しでボルバを睨む。
ゴリラの握力は一トン。
握力を使えるよう左手は開いて、右手は拳を作り、コンボイは待ちの構えを取る。
しかし、ボルバの不敵な笑みは崩れない。
「お前に、ハントの授業をしてやろう」
ボルバが駆ける。
コンボイが拳で撃墜しようとして、ボルバは華麗な身のこなしでかわし、コンボイの鼻面に肘打ちを叩き込む。
怯んだコンボイの顔面、いや、鼻面と喉に拳と肘のラッシュをかける。
コンボイが腕で薙ごうとすると、ボルバは既に背後へ周り、後ろ回し蹴りでコンボイのこめかみを打ち抜いた。
コンボイがよろめく。
たたらをふんだコンボイの左こめかみに、ボルバは連続後ろ回し蹴りでカカトを叩き込む。
仰向けに倒れたコンボイの顔面にはストんピングッキックで鼻をカカトで潰す。
それからすぐに距離を取って、饒舌に語る。
「強靭な筋肉に覆われた獣のボディへの攻撃はタブー。だがどれほど強靭勝つ巨大な猛獣も所詮は動物。こめかみ、眼球、鼻、喉などの急所は共通だ。熊ですら鼻を殴られたら逃げるのが現実だ」
それでも流石はゴリラか、コンボイは重量級のボルバの攻撃を顔面に受けてなお立ち上がる。
「教えてあげようゴリラ君。私にとっては全て狩猟対象なんだよ。ライオンも、サイも、カバもゴリラも、そして」
コンボイがナックルウォーキングならぬ、ナックルランニングで駆ける。
オリンピックの短距離走選手を超える速度で迫る巨躯を前に、ボルバは慌てない。
低い体制からバネのようにしてコンボイへ跳躍。
コンボイの張り手は、ギリギリ間に合わない。
ボルバはコンボイの顔面に跳び膝蹴りをブチかまして、彼の意識を刈り取った。
「人もね……」
うつぶせに倒れ動かないコンボイの背後で、ボルバはVIP席に座るイリスへ向いた。
第一試合の勝者はファングで、第二試合の勝者はボルバ。
これで、二次予選第一試合はファングVSボルバで決まった。
湧き上がる歓声で聞きとれないのは承知で、ボルバは強者の笑みで喋る。
「待っていたまえイリス君。君の可愛いペットのファングは、魔獣は私がハントする」
ボルバの声は聞こえないはずだ。
しかし、VIP席のイリスは嗜虐の笑みを返す。
「いいわよ原始人。あたしのファングがあんたをぐちゃぐちゃにしてあげるわ」
魔獣の主人イリス。
最強の捕食者ボルバ。
両社は互いに視線で一つの単語を語る。
殺す。と。




