第17話 試乗会1
翌日、王都近郊に作った工場内の実験線に国王をはじめとしたドリュフェス王国首脳部の皆さんが集まった。また、一部貴族も来ていた。鉄道の試乗会を行うためである。
実験線は3㎞ほどできているので問題ない。実験線は踏み切りの試験を兼ねて北のユーフィ方面に向いている。
「まだ試作車しかできてませんので、国王陛下が乗る専用車はありませんから、試作の1等車に乗ってもらうことになります。試験線は3㎞ほどなので、20分ほどの試乗会になります。まず、乗車する列車と、付帯設備の説明になります。」
そう言って俺は参加者を仮設乗降場に案内する。
「まず、こちらがプラットホーム――――――通称ホームと言います。これは仮設なので木製で簡単な作りになってますが、正式なものは石造りになります。簡単に言うと乗客や貨物の乗降に使う場所になります。」
「ここに上がるのに階段があるのだが、あれに直接階段を付ければいいのではないか?」
確かに、古い時代の鉄道車両はデッキに上がるのに少し上らなきゃいけなったけど……。
「まず、車両に直接階段を付けることはできません。付けるとなると、乗降に時間がかかりすぎますし、急勾配の階段になりますので降車の際、転倒する危険性が高くなります。安全性を考えてホームは必要でしょう。」
万全を期すならば、ホームドアも作りたいが、さすがにそこまでは要らないだろう。というか、そこまで作るの面倒臭い。
「では次に機関車です。」
そう言って俺は前に繋いでいる機関車の方に案内する。
「こちらが魔力機関車の試作車になります。といっても、この魔力機関車はほぼ完成品になっていますんで、これを元に量産型を作ることになります。車体重量はおよそ100トン。最高速度は90㎞/hになります。」
といっても、速度制限を付けてるのだが……。実際には300㎞/hは出せるが、安全のために制限をかけてる。制限の理由は制動距離が延びて止まれなくなるのと、純粋にカーブが曲がれないからだ。
「なお、この車両の内部構造については秘匿させていただきます。」
「それは、独占するということかね?」
「いえ、安全のためにですね。『これ、要らんだろう。』と言って、安全装置を省略されたら運行の安全を担保できなくなります。」
ATSやデッドマン装置を省略されると事故る要因になるからな。
「もし省略されたらどれほど危険なのですか?」
「そうですね、俺の故郷である世界で実際にあった事故でいうならば……、三河島事故かな。あれで160人の方が亡くなられている。あれは、まだ安全が人間の感覚で担保していた時代だから、俺のいた時代ならそこまでひどいことになっていないだろうね。」
あの事故は、今なら3つ目の事故は十分防ぐことができるだろう。
「それほどの事が起きるのですか。」
「だって100トンの金属の塊が90㎞/hで突っ込んできたら、誰だって生き残れませんよ。」
「……なるほど。確かにそうですな。」
「では、次は客車になります。」
そう言って、仮設ホームの横に取り付けた階段を上って客車に案内する。
「木製の客車で、こちらは1等車になります。乗車定員は72人です。」
「ほう、側面に窓が付いているのだな。」
「ええ、一応展望や、駅名がわかるよう、側面に窓が付いています。この車両は付けていないのですが、貴賓車には、防護の魔道具を設置し、テロ対策をする予定です。」
なお、まだ王家用の御料車の話はする予定はない。
「実際の運用時は運賃とは別に1等車料金をもらう予定です。その代わり、3等車は基本運賃だけで乗車できます。運賃は馬車よりちょっと安いくらいを目安に、1等車料金は銀貨1枚くらいを想定しています。また、現在は必要ないですが、寝台列車や夜行列車も想定しています。もちろんその時には食堂車や寝台車を導入する予定です。」
第2期線ができる頃には用意できればいいな。
「最初から導入する訳じゃないんですね。」
「ええ、第1期線の運行時間が最長でも2時間程度で、寝台車を用意するほどの時間は必要ありませんし、食堂車は、開業時までに製作できるか不明なためですね。」
寝台車は座席兼任ではなく、ブルートレインのような寝台専用を作る予定だ。
「では、実際に乗車しましょう。」
俺はそう言って、皆さんを車内に案内した。
制動距離:ブレーキをかけて止まれるまでの距離。
デッドマン装置:運転士が運転できなくなった時に非常ブレーキをかける装置。マスコンについている握り続けていないといけないタイプや、ペダルを踏み続けるものなどがある。
三河島事故:昭和37年5月3日に常磐線三河島駅構内で発生した多重衝突事故。貨物列車が停止信号を見落として安全側線に進入して脱線、下り本線に傾斜する状態で停車。その数秒後に下り列車が衝突、上り線を支障する形で脱線、停止。この時点では軽傷者25人。1、2両目はパンタグラフが架線から外れたため停電し、乗客は非常用ドアコックを操作してドアを開けて上り線側に降りて三河島駅に向かって歩き始めた。事故発生から約6分後、上り線の支障を知らない上り列車が事故現場に近づき、線路上を歩く乗客に気づいて非常ブレーキをかけたが間に合わず、乗客を巻き込みながら下り列車に衝突。下り列車の先頭車と2両目、上り列車の先頭車が原型を留めない状態になり、上り列車の2両目から4両目は高架から落ちて大破する。160名が死亡、296名が負傷する大惨事になった。なお、この頃はまだ常磐線にATSはなく、防護無線も存在していなかった。
パンタグラフ:電車の集電装置の一種。屋根の上にあり、架線から集電する。
非常用ドアコック:これを操作すると、ドアを手動で開けることができるようになる。使用する際には安全のため乗務員の指示に従って使用してください。
ブルートレイン:かつて国鉄およびその後身のJRグループで運行されていた客車を使用した寝台列車を指す愛称。運行する車輌の色が青だったことを由来とする包括的な列車の通称である。
明日から10月ですね。2022年10月14日は日本における鉄道開業150周年です。また、10月14日はマルサロア鉄道の開業日(プロローグ 開業日 参照)になります。なので、10月は毎日1話掲載します!
次回は10月1日になります。




